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元OL令嬢リアナの受難 {悪役令嬢と仲良くなったら、王子の護衛騎士に逃げ場を塞がれた件}  作者: ねこまる


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第12話:教室内は視線の嵐。 〜OL、専属騎士と秘密のアイコンタクト〜


 教室に入った瞬間の、あの「しん……」とした静寂。

 クラス中の視線が、入り口に立つ私たちに釘付けになっている。

 黄金の髪をなびかせたレオンハルト殿下。

 凛とした美貌を湛えた公爵令嬢エリシア様。

 そして、その背後で完璧な微笑みを湛える専属騎士クラウス様。

 

 私はここでようやく、自分が犯した致命的なミスの正体に気づいた。

 

(……そうだわ。良かれと思って二人の間に入ったせいで、私、この『世界の中心』みたいな超豪華メンバーのド真ん中にパッケージングされちゃってるじゃないの……!)

 本来なら背景であるはずの私が、主役たちの輝きを一身に浴びる「主役パーティ」の一員として、学園中の注目を浴びながらレッドカーペットを歩かされている。

 私は、登校前に座席表を死ぬ気で頭に叩き込んでおいた「窓際の一番後ろ」の自席へと、脇目も振らずに滑り込んだ。

(……よし。ここなら、ギリギリ視界の端。あとは放課後まで空気になりきれば……!)

 ふう、と溜息をつき、ようやく見つけた安全地帯に身を沈めた……はずだった。

(……ひぇっ。なんでこの人、ここに立ってるの!?)

 殿下の護衛として、専属騎士のクラウス様がスッと私のすぐ隣(の窓際)に立ったのだ。位置的に、私の席の真横。

(近すぎる! 仕事中の有能オーラが眩しすぎて、隣にいるだけで気圧されるわ……!)

 私が「死んだふり」をして机の一点を凝視していた、その時。

 前方で、レオンハルト殿下がエリシア様の斜め後ろの席の生徒に、爽やかな笑顔で声をかけた。

「悪いけれど、少しだけ席を替わってもらえるかな?」

 断れるはずもないモブ生徒が音速で席を空けると、殿下は何食わぬ顔でその席を陣取った。……いや、陣取るどころか、ごく自然な動作でエリシア様のほうを向き、穏やかな、けれど真っ直ぐな眼差しを彼女に向けている。

 ふと視界の端で、隣に立つクラウス様が拳で口元を隠し、肩を小刻みに震わせているのが見えた。

 視線の先には、殿下からの『熱心な眼差し』を一身に浴びているエリシア様。

 彼女は、完璧だった。

 その表情はどこまでも冷静で、背筋をピンと伸ばし、いかにも「予習に集中しています」という凛とした横顔を見せている。……けれど。

(……エリシア様、教本! 教本が真っ逆さまですよ!!)

 そう、手元の教本は完全に上下が逆。

 殿下がごく普通に、しかしじっと自分を見つめてくるせいで、彼女の脳内は処理落ちして完全にバグっているようだった。

「……っ。リアナ嬢、見ましたか?」

 不意に、すぐ横から押し殺したような囁き声が聞こえた。

 驚いて彼を見上げると、今の彼は、まるで面白い悪戯を見つけた子供のような目をしている。

「……クラウス様。わ、笑い事じゃないですよ。エリシア様、あんなに必死に平静を装っていらっしゃるのに……」

「いいえ。僕も殿下の専属になってそれなりに経ちますが、あんなに面白い……失礼、あんなに人間味のあるエリシア様は初めて見ました。……貴方のおかげですね、リアナ嬢。なかなかに、いい『仕事』をなさる」

 クラウス様は私にだけ聞こえるような小さな声でそう言うと、私に向けて、ふっと悪戯っぽく微笑んだ。

(……ちょっと! 今日初めて喋ったばかりの騎士様から、そんな『デキる同僚』みたいな評価をされるなんて! 雲の上の存在と、いきなり共通の秘密を抱えた共犯者にさせられて、私のキャパはもう限界よ!)

 私が混乱している間にも、殿下の「観察」はさらにヒートアップしていく。

「エリシア。……君、今日はなんだか、いつもより赤色が似合うね」

「な、ななな……何をおっしゃっていますの、殿下! よ、予習に、予習に集中させてくださいまし……っ!」

 真っ逆さまの教本を凝視したまま、蚊の鳴くような声で応戦するエリシア様。

 それを見て、さらに面白そうに目を細める隣の騎士様。

(ダメだ。この現場、まともな神経してるの私しかいない……! 先生、早く来て! 早く授業を始めて、このカオスな空間を強制終了させて!!)

 私の必死の祈りが通じたのか、その瞬間、重厚な鐘の音が学園中に鳴り響いた。

 ほどなくして、整った足音と共に教壇に一人の紳士が姿を現す。

「皆様、お席にお戻りください。……レオンハルト殿下も、ご準備はよろしいでしょうか。それでは、本日の授業を始めさせていただきます」

 教師の落ち着いた、しかし威厳のある声が教室を満たす。

 ようやく訪れた「秩序」の気配に、私は心底安堵して息を吐いた。

 ……けれど、現実は甘くない。

 殿下は結局、斜め後ろの席に居座ったままだし、私のすぐ横ではクラウス様が「完璧な護衛」の姿勢で微動だにせず控えている。

 広げられた教本の紙が擦れる音。

 平穏とは程遠い、私の学園生活が本格的に幕を開けた。

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