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元OL令嬢リアナの受難 {悪役令嬢と仲良くなったら、王子の護衛騎士に逃げ場を塞がれた件}  作者: ねこまる


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第11話:王太子殿下は太陽すぎる。 〜OL、先輩の『恋する背中』に胸が痛む〜


 エリシア様は熱心に私を指導してくれていた。その厳しい口調に、私は「あぁ、この人、本当に真面目なんだなぁ」と感心すらしていたのだけれど。

 ふと、背後の空気が、ふわりと高貴な香りに包まれた。

「——そこまでだよ、エリシア。彼女が困っているじゃないか」

(……えっ?)

 その声が聞こえた瞬間、私の心臓は跳ね上がった。

 恐る恐る振り返れば、そこには黄金の髪をなびかせたレオンハルト王太子殿下が、いつの間にか私たちのすぐそばに立ち、困ったような微笑みを浮かべていたのだ。

「……! レオンハルト殿下っ」

 私を指導するために一歩詰め寄っていたエリシア様の体が、ビクッと跳ねる。

 端から見れば、完璧な公爵令嬢が、情けない顔をした私を柱の方へ追い詰めて、逃げ場を塞いでいる最悪の構図に見えたかもしれない。

「エリシア、君の『正しさ』は時に他人を追い詰める。休暇明けのリアナ嬢を捕まえて、朝からそう厳しく問い詰めなくてもいいだろう? 彼女が怯えているじゃないか」

 殿下の眼差しには、「また君はそうやって可愛げのないお説教を……」という、明らかな苦手意識が透けていた。

 エリシア様は反論しようとして、喉の奥で言葉を飲み込む。大好きなレオンハルト殿下の前で「私は彼女を助けていただけです」と主張するのは、彼女のプライドが許さないのだろう。

(……えっ、待って。殿下、それ完全な誤解です! 説教じゃなくて、これは手厚い新人研修なんです!)

 みるみるうちにエリシア様の顔が青ざめていくのを見て、私のOL魂が叫んだ。「上司が不当な評価を受けているのを、部下が黙って見ていられるか!」と。

「ち、違います殿下! 誤解です!」

 私は反射的に殿下とエリシア様の間に割って入った。

「私が……私が情けないことに、クラスがわからず困っていたところを、エリシア様がわざわざ声をかけてくださったんです! クラスまで、私の遅い歩幅に合わせて、一緒に歩いてくださっていたんです!」

 一気にまくし立てた私の言葉に、回廊が静まり返った。

 レオンハルト殿下は驚いたように目を丸くし、そして隣のエリシア様を見る。

「……エリシア、君が? 『規律』のためではなく、彼女のために?」

「な……、余計なことを言わないでくださいまし、リアナ・アルヴィル!」

 エリシア様の顔が、沸騰したように真っ赤に染まった。扇子をバタバタさせ、視線を激しく泳がせ、見たこともないような形相で狼狽えている。

「私はただ、彼女が道端で突っ立っているのが邪魔だっただけで……その、不愉快だったから……っ!」

 言葉が詰まり、最後には「もう、知りませんわ!」と顔を背けてしまった。

 その隙だらけの、あまりにも人間味にあふれた「恋する女の子」の反応に、殿下は呆然とした後——

「……ふーん……へぇ、エリシア。君、そんな顔もするんだね」

 レオンハルト殿下の瞳に、これまでにはなかった強い好奇心が宿った。

 その直後、殿下の数歩後ろに控えていたクラウス様と、ふいに対面で目が合った。

(……あ。クラウス様、めっちゃニヤニヤ……いや、慈愛に満ちた笑みを浮かべてる!)

 彼はすべて分かっているのだ。エリシア様が本当は不器用で優しいことも、そして今、殿下の興味の矛先が劇的に切り替わったことも。

 クラウス様は私にだけ見えるように、口元に人差し指を立てて「ナイスアシスト」とでも言うようにウィンクを寄越してきた。

(……ちょっと! 完璧エリート騎士のウィンクなんて、福利厚生が過剰すぎて心臓に悪いわよ!)

「さあ、予鈴が鳴るよ。行こうか、エリシア、リアナ嬢」

 殿下は上機嫌にそう促すと、あえてエリシア様の隣に並んで歩き始めた。

 背後でクラウス様が、私に「どうぞ」と道を譲るようにスマートにエスコートの体勢を取る。

(……お、おぅ。これは、教室に着くまでにエリシア様の心臓が持たないパターンだわ……!)

 そして私は重大なミスに気付いていなかった。

私の右前には、この国の太陽、レオンハルト殿下。

 左前には、美貌の悪役令嬢、エリシア様。

 そして私のすぐ後ろには、キラキラした微笑みを振りまく専属騎士、クラウス様。

 回廊を歩く生徒たちの視線が、まるでレーザービームのように私を射抜いている。

 女子生徒たちの「あのポッと出の令嬢、なんであの中央に混ざってるの!?」という無言の悲鳴と、男子生徒たちの「一ヶ月休んでる間にどんなコネ作ったんだ……」という困惑が、物理的な圧力となって押し寄せてきていた。

 そう、気付いていない。

平穏な隠居生活を目指していた私の「モブ人生計画」が、早々に、かつ修復不可能なレベルで失敗していたことに——。

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