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第9話 本心

ヒーローの目覚め。それはいつでも、どこでも、変わらない目覚め。

 オールは目を覚ます。


 窓の外を見れば陽はもう、高いところに上がっている。時計を見れば、午前九時を指していた。視線を隣へと動かせば、昨夜、寝る瞬間まで隣にいたはずのルミナリエの姿はなくなっていた。代わりに彼がいた場所には「I'm going to the admin office first.(先に管理室に行っている)」と書かれた紙が置かれていた。


「真面目だな、ルーさんは」


 苦笑いを浮かべながらオールはその紙を手に取り、側にあったテーブルに載せる。そして、テーブルの上に綺麗に畳まれ、置かれていた服に気が付く。その服を手に取ってみれば、正にオール好みである動きやすいジャージが置かれていた。オールはそれがルミナリエの用意したものだとすぐに気が付く。


 今いるこの日本で彼の好みを知っているのはルイ・ルミナリエ、その人一人だけだ。


 オールはそのまま、着替え、さてどうするかと思考を巡らせる。他の五人のように何かを考えたり、指示を出したりすることは彼の仕事ではない。資料であったり、報告書を見るのもあまり得意ではない。


 ではさて、今日一日どうするべきか。


 オールは頭を悩ませる。


「おはようございます、オールさん」


 コンコンッと部屋の扉がノックされる。オールがそのノックに返事を返せば、入ってきたのは木崎だった。


「Good morning.(おはよう)昨日の記者会見見たぞ。面白かった」


「面白い、ですか。褒められているのか貶されているのか、分かりませんね」


「俺的には褒めてるつもりだ」


「そうですか」


 オールの言葉にどこか、納得のいっていない顔をする木崎。本人的には記者会見での自分の態度は褒められたものではないと感じていたためのそういった反応だった。だからこそ、褒められるとは露ほどにも思っていなかった。


「ああ、ルミナリエさんから伝言を預かってます。『留守電についてだが永島に「知りません、そんなもの」と言われた』と。一体、何を聞いたんですか」


「もう少し、正確に情報が集まったら教えてやる。……今日はあんたもルミナリエも管理室に籠もりっきりか?」


 ルミナリエからの伝言にそうことは上手くいかないか、と落ち込みながらも思考を切り替える。いちいち、一つの失敗で落ち込んでいては、事態は改善しない。


「そうですね。先程、リーサルさんからの調査結果の報告もあったので、王さん含めた三人で情報の精査を行います」


「リーサルからの情報?」


「ええ。私から言っても良いですが、気になるなら御本人からお聞きになった方が良いかと。そちらの方が分かりやすく、説明していただけると思うので」


 ニコリと真意の読めない笑みで笑う木崎にオールは違和感を覚えた。自分でリーサルからの情報を言わないことに、で違和感を覚えたのではない。木崎が真意の読めない顔で笑っているにも関わらず、どこか苦々しそうな顔をしていたからだ。


「分かった。じゃあ、リーサルのところに俺は行く。そんでその後は一ヵ所、気になる場所があるからそこに行く」


「気になる場所ですか」


「ああ。昨日、個人的に調査したやつで東京にある民家が何か、関係がありそうな感じの結果とかが出てきたから、そこに行く。別に良いだろ、勝手に動いたって」


 そう木崎から視線を逸らしながら言って、オールは気付く。


 祖国の政府高官に対しての態度と同じ態度を他国である日本の官僚に取ってしまった。しまった、と思ったときには遅かった。ゆっくりと木崎の方に視線を向ければ、そこにはそれまでと変わらない薄い笑みを浮かべたままの木崎の顔があった。


「ええ、構いません。あなたの場合はその直感が誰よりも鋭く、真実に近付く一歩を生み出しますので」


 思ってもいなかった肯定の言葉。


 祖国で同じ態度を取ったときは嫌そうに、迷惑そうにされた。それなのにも関わらず、木崎圭人という人物は祖国の人間達とは違い、オールの言葉をそのまま、受け入れた。それどころか、肯定した。自分の直感を素晴らしい者だと褒めた。


 その木崎の言葉はオールにとって、あまりにも予想外のものだった。


「……どうか、しましたか?」


「いや、褒められると思わなかったなあと」


「褒められるべきことだと思いますが」


「そう、っすか」


 何がおかしいのか、と首を傾げる木崎にオールは何とも言えない顔をした。返す言葉がなかった。悪意も敵意も何も自分に対して悪い感情を持っていない木崎に対して、どんな言葉を返すのが正しいのか、分からなくなったのだ。


「では、私はこれで失礼しますね」


「あ、お、おう」


 態度を変えず、その場を去ろうとする木崎にオールはふっととあることを思った。


「なあ、あんた、いや、木崎さん。どうして俺達を招集したんだ?」


「それが最善だからです」


「それなら、これは本心で答えて欲しいんだが、大怪獣に対してどう思う?」


 木崎は背中を向けていたオールの方に振り返る。オールはその顔を見て悪寒が背筋に走る。冷や水を浴びせられたような、氷を当てられたような悪寒を感じた。


 見たこともないような冷めた、軽蔑の目。


「──それは本当に本心で答えても?」


「ああ、そうだ」


「なら僭越ながら言わせてもらいます」


 木崎はそう言い、オールに近付いてくる。


 グイッとオールのジャージの襟を掴み挙げ、それまでと比べものにならないほど顔を歪める木崎。その目は汚物でも見るかのようにオールのことを見下していた。



「糞食らえ。ざまあみろ」



 あまりにも歪んだ笑み。あまりにも酷い暴言。あまりにも、あまりにも、彼の言葉とは思えない言葉。


「それが私から大怪獣に対しての思いですよ。ではこれで失礼します」


 言葉を失うオールを余所に木崎は姿勢を整えるとそのまま部屋を去った。


「──I don't know about human nature, Mr. Lou. (人って分かんねぇな、ルーさん)」

俺は『あの言葉』を真剣に捉えなかった。




読んでいただきありがとうございました。お時間ありましたら、レビュー、評価等していただければと思います。

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