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第10話 超人、武器商人、大怪獣の遺体

ヒーローは武器商人と話をするために大怪獣の遺体の側に訪れる。

「Lethal, I'm coming in. (リーサル、入るぞ)」


 木崎の衝撃の発言からおよそ一時間後、のんびりとオールはリーサルのいる大怪獣処理の現場へと訪れた。現場は大怪獣を倒した張本人、オールが訪れたことに騒然となる。オールはそんな現場には目もくれず、リーサルがいる合同現場部隊のテントへと入っていく。


「ん、オールか。外が騒がしいと思ったらあんたか」


「調査結果の報告を聞きに来たんだが何か分かったのか」


「分かったどころか、現場はその結果に焦りまくってるぞ~。調査を頼んだ俺も正直、びっくりぎょうたん」


 何かを諦めたようにリーサルはオールにそう言った。最後によく意味の分からない言葉を付け足して。勿論のこと、リーサルはその言葉の意味は分からない。オールもその言葉の意味は分からない。


「び、びっくり、ぎょうたん、?」


「そう。びっくりぎょうたん。んで、分かったことなんだが、このレントゲン写真とX線写真、ビデオ映像見て見てヒーロー様はどう思う?」


 リーサルの言うよく分からない言葉を反復しながらオールはリーサルに見せられた画像、そして映像を見る。何十枚、何百枚と撮られた写真。荒れた映像。それはどう考えても大怪獣の内部の画像と大怪獣の内部を撮った映像だということはオールでもすぐに分かった。だが、リーサルがそれで何を自分に伝えようとしているのはかは一切と言ってよいほど、分からなかった。


 医者でも看護師でも、医療関係者でもないオールにはその大怪獣の内部がどうおかしいのかはまったく、分からない。ましてやオールの医療知識は一般人が知っている医療の基礎知識でさえ、知っているのかどうか危ういものもある。彼が唯一、覚え、実践できる医療的対応は緊急時の救急対応くらいだった。


「…………いや、何も分かんねぇな」


 オールのお手上げポーズにリーサルは溜息をつきながら言った。


「アレルギー反応起こしてるんだな、この大怪獣は」


「What?(何て?)」


 オールがリーサルの顔を見れば、リーサルも困ったような顔をしていた。その顔が自分の聞いた言葉が聞き間違いではない、ということを証明していた。周囲をチラリと見渡せば、自衛隊の隊員も他国の軍隊の隊員も、皆一様にオールから視線を申し訳なさそうに逸らす。明らかに現実を認めたくない、見たくないといった反応のようにしか思えない反応。


「アレルギー反応。内部がどう考えても腫れてる。アレルギー反応で赤くなって膨らんで、腫れてるんだ。大怪獣は体内に入った何か対してアレルギー反応を起こした。こんなにデカいのもそのアレルギー反応が原因の可能性が高いってわけ。正直、これは俺も予想してなかったよ」


「アレルギー反応が身体内部で起こって、内部細胞が膨張。そのせいでこのサイズまでデカくなったってことか?」


 オールの返答に疲れを露わにさせながら頷くリーサル。だが、一瞬後、彼はニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「そうなるな。ってことはこの内部でアレルギー反応を起こしている物体を取り除けばアイレルギー反応が収まり、大怪獣の処理が容易になる可能性が高くなる」


 自分が考えもしなかった可能性。戦っていた自分でさえ、大怪獣がアレルギー反応を起こしていることは分からなかった。ただ倒すことにしか意識が向いていなかった。自己嫌悪に陥るほどオールは悩むわけでもないが、しかし、そのような大怪獣の様子に気付けなかった自分の観察眼はよほど悪いのだろうと心の中で笑ってしまった。


「それ、永島さんにも言ったか?」


「一時間前に。何か思い当たる節があるとかないとか言って、自宅に籠もってるみたいだ。まあ、明日には処理方法をはっきりさせて、連絡の一本でも入れてこれそうな感じではあったな」


 そういえば、自分は昨日から永島から連絡を一本も貰っておらず、話し合いの後からはまったく顔を合わせていなかったことにオールは気付く。それほどに自分に会いたくない何かがあるのか、それともただ単に会う機会がないのか、連絡しなくても良いと思われているのか。永島が自分と意図的に距離を取っているようにオールには感じられた。


「そんな感じか。じゃあ、話も聞けたことだし、俺は気になる場所に行く。あんたはまだ、ここにいるんだろ」


「そうだな。いるな。何かあったらまた、連絡を入れる。……ああ、そうだ。最後に一枚、この写真を見てほしい」


 テントから出そうになっていたオールをリーサルは引き留め、彼に一枚の写真を渡した。オールはその写真をマジマジと見る。


 その写真はレントゲン写真だった。中心には丸い円状の何かが写っていた。中心を刳り抜かれたような何か。例えるならばフラフープのような形をしていた。だが、その大きさはあまりにも小さく、大怪獣の内部に何故、あるのかと思うほど小さかった。


「何だ、これ」


「正直、分からない。鉄製のようにも思えるが正確な物質は分からない。膨張した内臓脂肪、胃の辺りの内臓脂肪の中に埋まっているらしい。他の大怪獣の身体の部位に同じようなものはなかったから体内には同様なものはない」


「……人為的に入れられた物?」


「そう考えるのが妥当かもしれないなあ。だけどそうなると一体、誰がいつ、どこでこれをあの大きさの大怪獣の内部に入れたのか。正直、お手上げ状態だ。後は他の奴らに託して、自分の仕事を全うするまで、ってな」


 背伸びをしながらそう言うリーサルにオールは内心、驚くしかなかった。彼がお手上げ状態になったことに驚いたのではない。ここまでのことを突きとめたことに対して驚いていたのだ。


 誰にも相談しないで自己判断で現場において着々と一人で調査を進め、大怪獣の遺体の処理をするための情報収集に健闘していたのだ。自分は自分の感じた疑問を明らかにすることしか一日ではできなかった。それなのにも関わらず、オールはたった一日で自分の倍以上の作業をしていたのだ。


「流石世界一の武器商人。頭回るなあ」


「頭と口が回るだけですー。多分、俺、あんたと戦ったら一瞬で負けるからな。腕力も脚力も常人だからな」


「へーい。じゃあ、行くな」


「おうおう、人を煽ってないでさっさと行け」


 オールはリーサルに追い出されるようにテントの外へと出る。そして足を前へと進めながらふっと視線を側にあった大怪獣の遺体へと向けた。


 腐ることもなく、蠅や蛆が発生することもないその遺体。現場の処理を任されている隊員達が頭を悩ませている姿が目に入った。自分の何倍も、何十倍も、何百倍も大きな大怪獣の遺体。


「You know, I resent you. You're the same monster, but you've never had anyone force justice on you, nor have you had justice forced on you. You are the same monster, but you can do as you please. Why is it that you are the only one who is free?(なあ、俺はお前のことが恨めしいよ。同じ怪物なのに誰かに正義を強要されたこともなければ正義を押しつけられたこともないんだろ。同じバケモノなのに自分の思いのままに動けるんだろ。なんで、お前ばっかり自由なんだよ、なあ)」


 それは本心。誰にも言ったことのない彼の心の奥底の言葉。きっと大怪獣が姿を現すことがなければその思いに気付くこともなかったような言葉だった。


 本能のままに動く大怪獣。正義を強要された超人。正義も悪も関係ない大怪獣。すべての行動を見張られているヒーロー。


 どちらが幸せでどちらが不幸せか。どちらが自由でどちらが不自由か。そんなの誰にでもすぐに分かる答えだった。


「But I can't help feeling sorry for you. Because you were unloved. You are the enemy of the whole world and the evil of the whole world. No matter how good a guy you really were, no matter how much someone actually loved you, your end was the worst of all possible worlds. (でも、俺はお前が可哀想でならないよ。だって、お前は愛されてなかった。全世界の敵で全世界の悪だ。お前が本当はどんなに良い奴だったとしてもお前を実際、愛している奴がいたとしてもどう考えてもお前の最期は最悪だった)」


 歪んだ感情。歪んだ思い。恨めしくて、羨ましくて、妬ましくて、その思いが募り募った。募り募ってようやく、言葉となって出てきた。


 歪んだ笑み。複雑な感情が絡み合い、その感情が表に出たとき、彼の顔はグシャリと歪められていた。表現のしようもないほど歪んだ顔。見るものが見れば、恐れを抱くように歪んだ顔だった。


「Hey, were you really happy to be born into this world? Are we really happy to be born into this world? (なあ、お前はこの世界に生まれて本当に幸せだったのか。俺達は本当にこの世界に生まれて良かったのか?)」


 その問いに答えは返ってこない。


「……I don't know, man.(……俺は分からないよ、なあ)」


 子どものように呟く彼の言葉に大怪獣は何も発さなかった。

俺達は本当にこの世界に生まれて良かったのだろうか。




読んでいただきありがとうございました。お時間ありましたら、レビュー、評価等していただければと思います。

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