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夜の帳がおりる頃  作者: 神無 乃愛
第二章
12/17

2

色々訂正入ります。

 アットウェル家としてヴェルツレン家に招待状を出してはいた。まさか、先代公爵がひょっこりやってくるとは思っていなかった。

「トーマスは忙しいでの。わしが来た」

「……はぁ」

 いつから先代公爵が居たのかすら、こちらに情報として入っていない。

 噂ではバークス公爵の「話相手」として呼ばれたとか、色々憶測が飛び交っていたが、こうやって会うとなると話は別である。

 まずもって、まだ二十後半のジェイムズでは絶対に話し合いの場では負ける。

「なに、暇人が来ただけのことじゃ。それに公爵領で内職を広めたのはわしじゃぞ?」

「そうだったんですか?」

 それ自体が驚きである。

「今は亡き妻がの。平民の出じゃったからのぅ」

 また爆弾発言をかましてきやがる。

「侍女や下働きの仕事を奪わず、何かできることがないかとやり始めたのが、内職じゃ」

 貴族側の言い分としては、「それでいいのか?」と言いたくなるような話である。

「公爵夫人がやっておるとなれば、公爵領内の富豪の家ですらやるようになる。そうすれば平民の家でもやる。それぞれやる分野を替えれば、競合することもないしの」

「で、奥様は何を……」

「公爵領特産の織物の糸色付けじゃ。これが平民に受けての、凄まじい勢いで内職として普及しよったわ」

 何という地味な話か。

「富豪の方は?」

「織物の模様デザインじゃな」

 これまた地味だと思ってしまう。

「そうすることによって、織り手はその依頼に合わせて織ったり、自分で模様デザインもしたりする。するとな、普段着の布地は自ずと変わって来るものじゃ」

 以前であれば布地を織ってから模様を描いていた。それを織模様に変えたのは先代公爵夫人だということだ。

 ただ、公式の夜会で着るには浸透していない。

 模様が時として装飾の邪魔になるからだ。


 だが、現ヴェルツレン公爵夫人はその織模様のドレスを好んで着用して夜会へ行く。

「領地特産のものを宣伝するにすぎん。妻は出来なかったがの」

「出来なかった?」

「当然であろうが。時の皇帝に宮殿で来ることを拒否され、他の夜会には招待すらされず、我が家からの招待状は無視されれば何も出来まいて」

 恐ろしいことをさらっと先代公爵は言う。

「平民出身と言うのがそこまで癪に障るというなれば、帝国に居る大半の民はどうなると陛下に奏上して、結婚だけは許してもらったがの。我が子にはそれで苦労をさせてしまったの」

「初耳です」

「仕方あるまいて。アットウェル家はだんまりを貫くことしか出来なかったからの」

 飄々と話すこの老爺に改めで驚いた。

「で、この地にいらっしゃる理由をお伺い……」

「それよりも内職普及が先じゃろて」

 あっさりとかわして、先代公爵が言う。

「この地で出来ることなど限られておるわ。馬鹿孫は研究ばかりの頭でっかちじゃて。……さて、この地にあるとある石を探すことが先決じゃな」

「石、ですか?」

「これは幼子でも出来る。ヴェルツレン家で自治しておるところでは子供の『手伝い』として推奨しておる。

 ただし、危機発動の報せがなったら、そこで終わりじゃ」

 治安はだいぶ回復したとはいえ、カーン帝国との緊張は今尚続いている。

「地雷は埋まっとらんよ。ヴェルツレン家で全て撤去しておる。その時に見つけたものじゃ。これ一つにつき、一リロを渡す」

「一リロですか!?」

 リロは最低単価である。それで子供たちが食いつくとは思えない。

「数年住んでるはずなのに、おぬしも分かっておらんの。この地域の一リロは他の地域の百リロくらいの価値はあるでの」

「……馬鹿な……」

「それほど貧しいのじゃよ。もう少し物価が上がれば、十リロに増やす予定はしておる」

 下働きを雇う際、トーマスに「帝都の平均賃金にしないこと」と言われたはずだ。それを加味してだいぶ安くしたものの、集まる人間は多く、人選に苦労した記憶がある。

「分かりました」

「女性の内職としては、この石の研磨じゃな。そんなに力は要らんし、時間もかからん」

「は!?」

「石自体はかなり小さい。そしてこちらから渡す研磨道具で大丈夫じゃ」

 どこまで用意しているか分からない。

「こちらは石一個につき十リロ。大抵一日二十は出来る。そこまで言えば分かるかの?」

「……はい」

「おぬしはもっと領民の声に耳を傾けることじゃ。それが出来なくては、よき領主になどなれぬぞ、ジェイムズ」

 先代公爵が笑いながら言う。それが心理なのだろう。

「領民の暮らしがあってこそ、我ら貴族が暮らせるのじゃ。貴族がすべきなのは領民の暮らしを安定させること。……皆それを忘れておるわ」

「……そう、ですね」

 戦が多い昨今。割を食うのは領民だ。


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