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夜の帳がおりる頃  作者: 神無 乃愛
第二章
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1


 先代ヴェルツレン公爵は機嫌よく、住居を動き回っていた。

「大旦那様! お願いですから供を連れて出てください!!」

 この地域がバークス公爵領となり、ヴェルツレン家自治領となって早数年、治安はめまぐるしく回復した。

 何せ、職があるのだ。

 当然の結果として、ゴロツキも少なくなる。

 それ故、先代は機嫌よく外へ遊びにいく。

 しかも護衛を連れずに、だ。


 それを止めて欲しいと働く者たちに懇願されるのは、常にトーマスだ。

 クリストファーはまだ学生。休みの時しか来ない。

 常に居るのはこの暇な狸爺とトーマスのみ。

 となれば、仕方がないことでもある。


「くそ爺。仕事やるからお忍び止めろ」

 トーマスの言葉には、既に「敬語」も相手に対する尊敬もない。

「で、本日の仕事はなんじゃ? 殿下のお話し相手か? 飽きたぞい」

「んなもん、仕事ですらない。今日はアットウェル家に行って欲しいんだよ。内職のレクチャー」

「ほうほう。おぬしでは無理な話かいの?」

「爺、出会いの場を提供してやるって言ってんだ。大人しくいけ」

「さて、では後妻でも見繕ってくるかの」

「そうしてくれ。で、私の苦労を減らしてくれ」

 冗談だと知っているからこそ言える返しでもある。本気だったら、多分トーマスの両親が黙っていない。

「……おぬしも言うようになったの。まぁ、腹の探りあいはおぬしでは出来ぬし、行ってくるとするかの」

 さり気なく嫌味を吐いて、先代は身支度を整え始めた。

 さすがにお忍びで行く服で、アットウェル家には行けない。

「で、トーマスはどうするつもりじゃい」

「いつものように研究。それから私学にもう少しいい教授を捜したい」

「……ふむ。教職には伝手があるで、あとで話をしておくとするかの」

「いや、ヴェルツレン家(うち)のじゃなく、殿下のところに作った私学。こっちから数人出さざるを得ない」

「すると、しばらくしてからかの」

 一応、バークス家を刺激しないようにはしている。

 こちらで職員が少なくなったら補充をするように見せておかないとまずいだろう。それを先代も分かっているだろうからこそ、「しばらくして」という話になったのだ。

「で、爺の感想を聞きたい」

「殿下についてか? そうじゃの。理想が高すぎるな。アレでは陛下に睨まれるであろうよ」

「自業自得か」

 未だに、定刻の要職に就けず、そして陛下と折り合いが悪いのはそこに原因があるのだろう。

「そういうことじゃ」

 陛下もあまり好きではないが、同じくらいゴドフリーも好きになれないのだ。

「まぁ、陛下よりはまだ我々の話を聞いてくれはするがの。それが無ければ、わしとて捨て置くぞ」

 身内に一番厳しいとされる先代の言葉に、トーマスは苦笑した。


 今日のアットウェル家との対談でこの先どう動くか変わってくるはずだ。


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