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 一応、バークス公爵領としてシャン・グリロ帝国に認められることになった。

 だが、色々と問題はあった。


 まずはゴドフリーが提出した領地分割に駄目出しが入ったのである。

 帝国側の言い分としては、研究施設のあるところはゴドフリー=バークスが直接治めることが「最低限」の命令として、不毛地帯をヴェルツレン家に押し付けるよう提案してきたのだ。

 さすがにゴドフリーが直訴に行こうとしていたのを、クリストファーが止めていた。

「兄上はそれでいいと言っております。逆にその条件を飲むとのことです」

「何故?」

 これはクリストファーも不思議でならなかった。だが、トーマスはそれについて何も答えようとしなかったのだ。

「……憶測ですけど、雇用促進でしょうかね」

 ジェイムズが事も無げに言う。

「雇用促進?」

「えぇ。ヴェルツレン家が統治すると決まった場所に何もないでしょう? まずは人を雇って寝場所の確保、そのあとヴェルツレン家の住居を作った場合、どれくらいの日数で人を雇えると思います?」

 その言葉に全員がはっとした。

「トーマス殿はそこまで考える人ですよ。……まだ十五歳だとは思えない発想です」

「分かった。陛下のお言葉通りにすると伝えておくよ」

「……兄上……」

 クリストファーはここにいない兄を思った。

 同じ両親の血をひきながら、何故もここまで違うのだろうかと。


 あの大人びた視線の先に何があるというのか。



 トーマスはいそいそと、帝国に報告していない(、、、、、、、)研究の移動を始めていた。

 こればかりは、帝国に渡すわけにはいかないのだ。


 おそらくこれ(、、)を手にしてしまったら、帝国は世界へ宣戦布告、そして全てを滅ぼしつくすだろう。


 トーマスにとってこの研究自体、別の意味を持っていた。


 とある集団の孤立である。


 全世界の中枢におそらく関わっているであろう、「奴ら」は常にこの世界に緊張をもたらしている。

 その存在を知ったのは、わずか五歳の時だった。


 あまりにも自然すぎる(、、、、)「偶然」だったのだ。


 両親にも、当時公爵であった祖父にも伝えることが出来なかった。

 ならば、ひとりで戦うしかないと思ったのだ。


 誰が敵で味方など分からない。

 それ故、誰にも知られること無く、この研究を続けている。



――ごきげんよう。エメラルドの瞳を持つ、「記憶持ち」のお坊ちゃま――

 そう、声をかけられたのは七歳の時だった。

 既にトーマスは「奴ら」に目をつけられたということだった。

――何のこと?――

――流石はヴェルツレン家のお方だ。驚きもしない――

 声をかけてきた男は上機嫌そうな声で答えてきた。

――あなたをスカウトしに来たのですよ。我々と一緒に来ていただければ、研究費はあなたの思い通りに出させていただきます。そして以前作り得なかった「方舟」を成功させることも可能です――

 嫌な連中だ。どこでそれが漏れた? そして誰に言っていないはずの「以前の記憶」を突き止めているのが怖かった。

 七歳児にしては珍しく、「ぎゃん泣き」をして周囲を驚かせ、それ以降、接触は絶っていた。


 両親に「記憶持ち」であることがばれたのも、同じ時期である。

 というより、気がついていたんだそうな。祖父が。

 流石「狸爺」といわれる公爵なだけある。そうトーマスは評価した。


 そして、それ以降ずっと特許をヴェルツレン家の名前で取っている。


 祖父は昨年引退し、何故かこの領内にやって来た。

 そして、居るのがあの不毛地帯である。


 これを知っているのはトーマスだけだ。


 逆にいいかもしれない、こうなったら狸爺をこちらも利用してやろう、そう思ったのだ。



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