第4話 休憩と疲労
レンタカーに乗ったときに入力したホテルの住所を入力した。
到着予定時刻は15時となっていた。
朝出発した時は昼くらいに着くんじゃないかな、とか考えていたがその考えは甘かった。
たしか夕食が18時だったはず、その前に温泉にも入りたい。
夜中に脳内シミュレーションした時はサービスエリアでその土地の名物でも食べようかと考えていた。
何なら仮眠の休憩を取りたいとも思っていた。
しかし何も調べずに欲望のままに計画がぶち上げたので少々無謀な状態になってしまっていた、のんびりと休憩している暇はなさそうである。
私は日ごろ鍛えた社畜としての精神力で休憩をとることなく車を走らせた。
しかし何事も限界はあるものでずっと同じ姿勢で運転していた為に肩と背中が猛烈に痛くなった。
そして尿意。
これは生理現象だから仕方ない。
少しでも影響を減らそうと車に乗ってから飲み物もあまり飲んでいなかった。
私は旅行がしたいのかそれとも死地を探しているのか自分でもわからなくなっていた。
とうとう日ごろの疲労の影響もあり肩の痛みに我慢できなくなり私は目についたサービスエリアに入った。
那須高原のサービスエリアだったと思う。
昼頃だろうか、昼を過ぎていただろうか。
私は駐車場に車を停めてトイレに行く、車に戻る前にコンビニで売っているようなどこにでもあるおにぎりを2個買って車内に戻って来た。
それを貪るように食べ終わりお茶を飲んだ時体に異変が起きた。
主に胸である、拍動が自分でもわかるくらいに乱れた。
一拍乱れるだけでも視界がぐあぁーんと言う感じに歪む。
胸を抑えるがそんなことで収まるわけもなく数回に一回拍動が不規則に鼓動した。
私は運転席で背中を反ったりしてじたばたしていた。
まるで心臓発作で苦しんでいる人のようであった。
時間にしては30秒もなかったと思う。
私の体感では5分くらい苦しんでいた気分だった。
幸い走馬灯を見ることなく拍動は以前と同様に落ち着いた鼓動に戻ってくれた。
私は安堵のため息を漏らす。
本当は出発をしないといけなかったがこの鼓動の乱れは私の体の疲労を表出させた。
腕を伸ばしてハンドルに手をかける力もでない、脚はブレーキもアクセルも踏む力も残っていなかった。
とても動ける状態でないと観念しシートを最大限倒してリクライニング形態にして運転席で仮眠をとった。
疲れすぎていると寝れないと言うのはよくある話だ。
日頃からそれを体感している私はこの時もそれを味わった。
寝れないのである。
いくら運転席をリクライニング形態にしても所詮は椅子である。
ベッドのように快適な寝床になるわけがない。
枕もなければ掛布団もない、そんな状態で寝れるほど私は鍛えられていなかった。
少しでも疲労を回復しようと目を瞑りじっとしていた。
音楽プレーヤーの類も持っていなかったので外のがやがやした人々の喧騒をBGMに休息を取った。
気が付いた時には外は雨が降っていた。
フロントガラスに雨粒があたり小さな音を立てている。
どうやら少しではあるが寝ることができたようだ。
私はサービスエリアの店に入りうどんを食べる。
しんどくてもご飯を食べないと力は出てこない。
食べ終わる頃には気分もよくなり疲れも体の奥に引っ込んだようだ。
これなら運転できる。
時計を見ると14時すぎ。
1時間あまり横になっていたのか。
そのうちどれくらい寝ていたのだろうか。
車に戻りキーを回してエンジンをかける。
ナビによるとまだ目的地まで二時間ほどかかるらしい。
当初の予定では15時ころに着いてゆっくりと温泉に使って晩御飯までのんびりと過ごすつもりでいた。
なんなら時間に余裕があれば下道におりて観光なんていいかもしれないと夜中に宿を予約しているとき考えていた。
自宅から旅館までの距離も知らないで出発したのだから自業自得である。
こうなってくるとどうして突然旅行に出るなどと血迷ったことをしてしまったのか後悔していた。
今さら引き返しても休息が遠のくだけである。
旅館に向けて雨の中の高速道路を走った。
那須高原での仮眠の後から疲れの壺の蓋が取れてしまったようで運転していると疲れが身体を這うようになり私の精神を苦しめた。
こういうのが事故に結びつくんだな、
と思い我慢せずに心の要望に従って小休憩をとりつつ車を走らせた。
17:00、私は旅館に到着した。
到着するやいなや受付の方から食事は何時頃にしましょうかと言われたので18:30にしてもらった。
部屋に到着し荷物を下ろす。
すぐさま館内にある内湯の温泉に向かった。
露天風呂はなく天然温泉の内湯だけである。
スパセンにあるような多種多様なお風呂はなくデカい湯船が1つあるだけのシンプルな造り。
風呂には私を入れて数名しかなく部屋が広いこともあって他人との距離を気にしなくてよかった。
人付き合いが苦手な私にとって大変助かる。
体を洗い湯船に入る。
自然と長いながい溜息が漏れた。
近くに人もいないから遠慮せず出すに任せて息が続く限り出す。
職場でする溜息はする度に体に疲れが溜まるような気分なのに風呂での溜息は口から疲れが出ていっている気分だ。
これを溜息と表現してよいのだろうか。
正反対の効果ではないか。
皮膚からも疲れが滲み出てきてそれが湯船の蒸気となって空中に霧散する。
浸かっているだけで疲れがとれていき身体がふにゃふにゃになっていく。
頭の中では仕事、シゴト、しごと。
休み明けの資料のレイアウトをどうしようかなどと考えていたがそれも温泉の力によって段々と思考が鈍ってくる。
酒に酔った時と似たような感覚になりいつしか仕事のことは感が無くなっていた。
湯船から上がり脱衣所に行く。
扇風機に当たり火照った体を冷ます。
気分が落ち着いてきたら湯船に浸かって体を温める。
そんなサイクルを繰り返した。
脱衣所にある時計を見ながら食事の時間まで風呂を楽しんだ。
食事はさすが旅館の食事といった感じで美味しくいただいた。
詳細に書ければ良かったが何分10年以上前のことになる為どんな食事だったかは覚えていない。
しかし食事が美味しくなければ覚えていただろう。
覚えていないということはThe旅館の食事という内容だったのだろう。
食事を終えた後はまた風呂に入った。
今度は食事終わりの客が何人かいたので湯船の端の方で大人しく浸かっていることにした。
風呂上がり後寝るまでの間は持ってきていた資格の過去問題集を広げて過去問を解いて過ごした。
この当時は銀行業務検定という資格の勉強をしていた。
銀行業務検定は複数の資格の集合体名である。
正しく書くならば銀行業務検定 財務3級とか銀行業務検定 証券3級と書いたほうがいいだろう。
私は年2回上司から何らかの資格を取るように指示されていたのでこの銀行業務検定内の各資格を毎日勉強していた。
旅行という非日常を味わう場面ですら仕事の魔の手からは逃げられないというのは社畜だからであろうか。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




