第96話 「太陽を相手に」
太陽そのものと戦う――それがどういうことか、四人は骨身で思い知らされていた。ガルダの翼が一度はためくたび、頂の大気は嵐となって荒れ狂い、羽根の一枚一枚から陽炎が立ち上る。フィーナの光をまとう剣も、ノアの光の矢も、王の輝きに触れた端から吸われて消えた。光で、光の王は灼けない。テオの結界は残り火のように細り、ヴェルナの翼は熱風に煽られて、舞うことすらままならない。「攻め手が、ない……!」。それでも四人がまだ生きているのは、偶然ではなかった。
最初に気づいたのは、やはりヴェルナだった。「……見ろ。あの爪も、あの焔も――ノアにだけは、当たっていない」。言われて、皆が目を疑った。荒れ狂う斬撃も、降り注ぐ火の雨も、ノアの体の寸前で、不自然に軌道を曲げて逸れていく。灰原の王と、同じだった。淀みに呑まれてなお、王の魂は、主君にだけは牙を立てられずにいる。ノアは確かめるように、一歩前へ出た。紅蓮の瞳がこちらを向き、神速の爪が振り下ろされ――刃は、髪一筋の距離で止まり、小刻みに震えていた。金と黒とがせめぎ合う音が、聞こえるようだった。
「なら、賭けるべきはそこです」。テオが荒い息のまま、円盤の縁を指した。「柱を這い上ってきた淀みの脈が、四方から縁の裏を回り込んで、王へ注ぎ込んでいる。あの供給さえ断てば、王の中の金色の火は、必ず盛り返す」。ノアの瞳にも視えていた。円盤の裏側、東西南北の四箇所に食い込んだ、黒い脈の太い束。あれを断つ間、誰かが王を引きつけねばならない。そして、王の攻撃が逸れる者は――ただ一人しか、いない。
「……嫌よ」。フィーナが、掠れた声で言った。「あんた一人を、あの嵐の真ん中に置いていくなんて」。ノアは静かに首を振り、窓に文字を灯した。「王は今も、僕を傷つけまいと戦ってる。なら僕は、王を信じて立っている。それが僕の役目だ」。それに、と文字は続いた。「口を取り戻したら、皆の名前を呼ぶ約束がある。死ねないよ」。フィーナは唇を噛み、それから泣き笑いのような顔で、拳をノアの胸に当てた。「……戻ったら、一番に私の名前だからね」。四人は散った。太陽の王の咆哮が、天を割った。




