第91話 「灼熱の螺旋」
黄金の羽根が石を焦がした跡を背に、四人は螺旋の回廊を登り始めた。陽の柱の内部は、巨大な吹き抜けを囲む一本道だ。中央の空洞を灼熱の上昇気流が唸りを上げて駆け抜け、時折、回廊にまで熱風の舌を伸ばしてくる。テオの冷気の膜がなければ、一刻ももたずに干上がるだろう。だがその膜があってなお、汗は止まらなかった。そして、ノアの生身の胸を、初めての試練が襲っていた。鋼の鎧を失った心臓に、熱がじかに響くのだ。鼓動が、早い。気づいたテオが、冷気の膜をノアの胸元だけ二重に編み直した。「胸を取り戻した直後に、よりによって灼熱の塔とは……皮肉が過ぎます」。ただ一つ、胸元で揺れるザラの護符だけが、不思議と、ひんやり冷たいままだった。
敵は、羽音とともに来た。壁の窪みに巣くう、焔羽の鳥たち。燃える翼を広げ、数十羽の群れとなって回廊を薙ぎに来る。厄介なのは、奴らが上昇気流の呼吸を知り尽くしていることだった。熱風が噴き上げる一瞬に乗って加速し、火の矢となって突っ込んでくる。だが、風の呼吸を読むことにかけては、こちらにも覚えがある。ノアの鼻が気流のうねりを嗅ぎ分け、窓が走った。「次の突風、三呼吸後――右上!」。フィーナの光をまとった剣が先頭を斬り落とし、ヴェルナの槍が二羽目を貫き、ノアの光の矢が群れの中核を射抜いていく。落ちた鳥は、床に触れる前に火の粉となって散った。
それでも、数は執拗だった。三度目の群れを払った頃には、フィーナの手の甲に浅い火傷がいくつも散り、ヴェルナの翼膜の端が焦げていた。岩陰のわずかな日陰でミラの軟膏を塗り込みながら、フィーナが吹き抜けの上を見上げる。「ねえ。この柱、どこまで続いてるのよ」。答えの代わりに、遥か頭上――雲を貫いた光の彼方で、金色の何かが、きらりと瞬いた。瞬き、ではない。目だ。途方もなく大きな金の瞳が、螺旋の底を這い登る四つの小さな影を、じっと見下ろしていた。
そしてノアの瞳は、もう一つのものを捉えていた。回廊の内壁を、髪より細い黒い糸が幾筋も幾筋も、上へ上へと這い昇っている。灰原で視た、あの淀みの糸と同じものだ。糸の行き先は、すべて頂――守護者の待つ、光の彼方。窓に、苦い文字が灯った。「淀みは、下から昇ってる。あの金色の王は、今この瞬間も――蝕まれ続けてる」。急がなければ。四人は手当てもそこそこに、灼熱の螺旋へと戻った。




