第90話 「陽の柱」
近づくほどに、その柱は、常識の外の大きさで四人を圧倒した。赤金の岩肌を持つ塔は、雲を貫いてなお続き、頂は灼熱の揺らめきの中に消えている。柱を仰ぐだけで首が痛み、根元に立てば、世界の果ての壁を見上げているような錯覚に襲われた。ザラたちは、柱の麓の沈んだ遺跡の陰に船を留めた。「あたしらは、ここまでだ。親父たちを町へ運んだら、また迎えに戻る」。彼女は首から外した小さな太陽の護符を、ノアの手に押しつけた。「親父の代から、砂海の守り神だ。……必ず、生きて戻んな。水の味、教える約束なんだろ」。
柱の根元には、巨大な双つ扉があった。翼を広げた鳥と太陽を組み合わせた紋章が、中央で鈍く輝いている。そして扉の左右の壁面には、あの浮き彫りがあった。玉座の何者かの口元から、光が幾筋もの梁のように放たれ、集った人々がそれを、掌で掬うように受け取っている。テオが野帳を開き、息を呑んだ。兄の写し取った他の封印の壁画の隅にも、同じ意匠が小さく描き込まれていた。「……『言葉』を、分け与えている? 声が――祝福として描かれてる」。ヴェルナは黙って、玉座の像を見上げていた。ノアが導かれるように紋章へ掌を当てると、太陽の意匠が内側から灯り、巨大な扉は、軋み一つなく、静かに開いた。まるで、主の帰りを待っていたかのように。
内部は、これまでのどの封印とも違っていた。地の底へ潜るのではない。柱の内壁に沿って、螺旋の回廊が、遥か頭上の光へ向かって、どこまでも昇っていくのだ。吹き抜けの中央を、灼熱の上昇気流が唸りを上げて駆け抜け、高度を増すごとに、熱は濃くなっていく。テオが冷気の膜を編み直しながら、乾いた笑いを漏らした。「下るのではなく、登るダンジョン……しかも、頂上に向かって熱くなる、と。つくづく、楽をさせてくれませんね」。回廊に足をかけた途端、壁の窪みから火の粉を散らして、燃える羽根の鳥たちが群れをなして襲いかかってきた。フィーナの剣が、ヴェルナの槍が、光の膜をまとって迎え撃つ。窓が告げる。「第六の封印――最上層。守護者の間まで、遥か」。
その時だった。遥か頭上――雲より高い光の彼方から、一声の啼き声が、柱全体を貫いて落ちてきた。天を裂く金属のような、それでいてどこか、悲鳴にも似た声。回廊の石壁が震え、砂塵がはらはらと舞い落ちる。吹き抜けの光の中を、一瞬、途方もなく大きな金色の翼が横切るのが、ノアの瞳に映った。そして、ひらり、と。燃える一枚の黄金の羽根が、長い長い螺旋を描いて舞い降り、四人の前の石床に落ちて、じゅ、と石を焦がした。窓に、短い文字が浮かぶ。「守護者は、既に――こちらを識っている」。




