第80話 「待ち続けた王」
扉の奥は、天井が闇に溶けるほど巨大な、円形の玄室だった。そして四人は、言葉を失った。何千、何万という青い火が、星の海のように宙を満たし、ゆっくりと巡っている。平原のすべての死者の魂。その星海の中心、黒石の壇上に、玉座があった。座しているのは、朽ちた王衣を鎧の上にまとい、曇った王冠を戴いた、半ば透き通る王の亡霊。大剣の切っ先を床に立て、柄頭に両手を重ね、深くこうべを垂れたその姿は、眠っているようにも、三百年、喪に服し続けているようにも見えた。守護者――レイス。
四人が踏み込むと、青い火の星海が、音もなく割れて道を作った。まるで、臣下が主賓を通すように。玉座の王が、緩やかに、顔を上げる。虚ろだった双眸が、ノアを捉えた。その瞬間、確かに、見開かれた。王が、立ち上がる。玄室全体が、ずん、と震え、星海の火が一斉に燃え立った。フィーナが剣に手をかけ、ヴェルナが槍を構える。だが王は、壇を降りると――ゆっくりと、その場に片膝を折り始めたのだ。朽ちた唇が動き、廃墟を渡る風のような声が、初めて、言葉を紡いだ。「……お待ち、して……おりました……」。
四人は、凍りついた。喋った。守護者が、初めて。しかも、待っていた、と。「どういう、こと……」。フィーナの呟きに答える者はない。ノアの心臓だけが、痛いほどに高鳴っていた。知らない。この王を、知らないはずだ。なのに、なぜ――目の奥が、こんなに熱いのか。
その時だった。玉座の下、封印の眠る床の亀裂から、黒い淀みが、蛇のように噴き上がった。膝を折りかけた王の体に絡みつき、骨の内へと喰い入っていく。王は頭を掻きむしり、絶叫した。その声に、玄室中の魂が共鳴し、幾万の悲鳴がひとつに重なる。青かった星海が、見る間に濁った赤紫へと染まっていった。王冠の下で、双眸が真紅に燃え上がる。大剣が、床から引き抜かれた。悲しみが、暴威へと裏返る。リオンの指が、掠れる光で宙に走った。「来るぞ――!」。赤く濁った幾万の火が、一斉に、生者たちへと向き直った。




