第79話 「地の底の霊廟」
第79話 「地の底の霊廟」
リオンに導かれた先、最も古い墓標の群れの中央に、それはあった。地に沈み込むように口を開けた、黒い石の階段。三百年、いや、遥かにそれ以上の時を吸った冷気が、地の底から吹き上げてくる。降りるほどに、壁の様相が変わっていった。上層は、戦死者たちを納めた三百年前の墓所。だがその下から現れたのは、比べものにならぬほど古い石組みだった。テオが息を呑む。「この浮き彫り……天空の社と、同じだ。鎖でも、檻でもない。皆が跪いて、何かを――祀っている」。七つの封印は、同じ手で、同じ祈りで築かれている。その確信が、また一つ積み上がった。
最深部へ続く柱廊で、彼らは待っていた。左右の壁龕から、がしゃり、がしゃりと歩み出る、完全武装の骸の騎士たち。錆一つない黒鎧、眼窩に青い火。王の近衛――死してなお、務めを離れぬ番人たちだった。斬り込んできた斧槍を、フィーナが受け流す。だが二合目、返す刃がテオの前腕を浅く裂いた。血はわずか。なのに少年は声を上げて膝をつく。「骨まで……凍みる……っ!」。刃の冷気が、傷口から腕全体を軋ませていた。別の一体が、動けぬテオへ斧槍を振り上げる。その白刃の前へ、淡い影が滑り込んだ。リオンだった。亡霊の身が亡霊の刃を受け止め、その輪郭が、ばちりと音を立てて大きく削れる。「兄さん!?」。「――今のうちに!」。ヴェルナの槍が近衛の膝を床へ縫い、ノアの腕がその兜をねじり上げ、フィーナの光の刃が胸の火を断った。
近衛長らしき一際大きな騎士を最後に打ち倒したとき、四人は満身創痍だった。テオの腕にミラの薬を巻き、フィーナの脇腹の痺れをほぐし、短い息を整える。リオンの姿は、ひと回り薄く、儚くなっていた。それでも彼は、柱廊の果てを指す。黒曜石の巨大な扉。その敷居の下を、平原中から集った青い糸が、光の川となって流れ込んでいた。扉の向こうは、音which一つない。あれほど絶え間なかった嘆きの声さえ、そこでは、ぴたりと止んでいた。
リオンの指が、宙に短く綴る。「この先だ」。ノアは扉の前に立った。取り戻した鼻が捉えたのは、死臭でも、淀みの腐臭でもなかった。深い、深い悲しみの匂い。そして、その奥に――またしても、あの、胸を掻きむしられるほど懐かしい、何かの気配。鼓動が、早鐘を打つ。ノアは、鋼の手のひらを、静かに扉へ押し当てた。




