第70話 「開かれた瞳」
黄金の羽が消えた祭壇の中央から、淡い光の珠が浮かび上がり、ノアの胸へと吸い込まれていった。窓に、文字が灯る。「第四の封印、解除。パーツ『目』を取り戻した」。次の瞬間、ノアの両目を覆っていた機械の硬質な光が、内側から溶けるように失われ、そこに、熱を持った本物の瞳が開いた。
世界が、一変した。ただ地図と敵影を映すだけだった視界に、万象の流れが溢れ出す。大気を渡る魔力が光の川となって視え、仲間たちの体には、命の灯が宿って視えた。フィーナは強く揺らめく炎のような、テオは小さいが澄みきった、ヴェルナは深く熾きた残り火のような光。「『目』の権能――魔力の流れと、物事の真を視る」。ノアはしばし打ちのめされたように立ち尽くし、それから我に返って、傷ついた仲間たちへ治癒の光をかざした。フィーナの肩が、ヴェルナの翼の膜が、命の灯を強めながら塞がっていくのが、新しい瞳には、はっきりと視えた。
その時だった。視界の奥で、何かが弾けた。青い空。黄金の翼。誰かの手が――これは、自分の手なのか?――その羽毛にそっと触れ、空の王は、心を許しきったように、静かに頭を垂れていた。温かい。懐かしい。壊れそうなほどの、信頼。像は、結ばれる前に霧散した。ノアは早鐘を打つ鼓動のまま、震える指で窓に綴る。「……僕は、あの王を、知っていた気がする」。誰も、答えを持たなかった。ヴェルナだけが、何かを言いかけて、静かに口を噤んだ。
見下ろせば、山を鎧っていた嵐が、端から糸を解くようにほどけていくのが視えた。淀みが晴れ、雲の切れ間から差した陽の光が、麓へと届いていく。あの眠りの霧も、もう消える。「急ごう。ミラが……町のみんなが、待ってる」。フィーナの声に頷き、四人は頂を後にした。取り戻した瞳の奥で、答えの出ない記憶の欠片だけが、いつまでも、静かに疼き続けていた。




