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鋼と鼓動 ~機械の体で目覚めた俺が、七つの封印に失くした自分を探す物語~  作者: TAKA


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第69話 「墜ちてなお、王」

頂は、嵐の底に沈んだ。横殴りの風と千切れ雲が視界を奪い、数歩先の仲間の姿さえ霞む。その白と黒の渦の中を、翼を失った王が、獅子の四肢で駆けた。墜ちてなお、その爪と嘴は健在で、振るわれる翼のひと打ちは、風の刃を無数に撒き散らす。「見えない……どこから来るの!?」。フィーナの叫びに応えたのは、ノアの窓だった。嵐が視界を奪っても、鼻は塞げない。「左! 二呼吸あとに、テオの後ろ!」。この山を共に登りきった信頼が、四人を一つの生き物のように動かしていた。


それでも、消耗は限界に近かった。王の突進がテオの結界を正面から打ち、青い光の壁が、ついに砕け散る。吹き飛ばされる少年を、ノアが割り込んで庇った。鋼の胸板が、王の爪に深々と抉られ、火花が散る。痛みは、ない。この胸がまだ機械であることを、ノアは初めて、ほんの少しだけありがたいと思った。「ノアさん……!」。窓に短い文字が走る。「僕はいい。次で、決める」。


好機は、ヴェルナが作った。裂けた翼を顧みず王の背に飛び乗り、槍で残る左翼を床へと縫い止める。フィーナが正面から斬り込み、振るわれる前脚を潜り抜けて、その肩口へ刃を突き立てた。押さえ込まれ、大きく晒された王の胸。その奥で、黒い淀みが心臓へ絡みつくように渦巻いているのを、ノアの鼻は確かに捉えていた。声にならぬ覚悟が、窓に灯る。「終わらせる」。渾身の光の槍が、嵐を裂き、王の胸を真っ直ぐに貫いた。


刹那、嵐が、糸を断たれたように止んだ。王の巨体から、黒い淀みが霧のように抜け落ちていく。濁った赤に染まっていた双眸に、澄んだ黄金の色が、静かに戻った。王は、荒い息のまま、ノアを見た。長い、長い沈黙。やがて空の王は、残された翼を静かに畳み――深々と、ノアへ頭を垂れた。まるで、主君へ礼を尽くす騎士のように。そのまま巨躯は無数の黄金の光の羽となって、静まった空へと解けていった。「……今、頭を、下げた……よね?」。フィーナの呟きに、答えられる者は、誰もいなかった。

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