第67話 「折れた翼」
「空の戦いは、空でしか制せない」。ヴェルナが翼を大きく広げた。嵐の下では仇でしかなかったその翼が、雲海の上の静かな空でなら、ようやく本領を発揮できる。彼女は風を掴み、旋回する王へと真っ向から舞い上がった。竜人と空の王、二つの翼が青空で交錯する。
だが、空は王の領分だった。ヴェルナの槍は幾度も紙一重でかわされ、逆に王は、風のわずかな流れさえ味方につけて背後を取る。「くっ……このっ……!」。鋭い鉤爪が一閃し、ヴェルナの左翼の膜が、音を立てて裂けた。揚力を失った体が、きりもみに墜ちていく。地上のノアが脚の力で跳び、腕の力でその体をしっかりと受け止めた。「……すまない。翼では、届かん」。ヴェルナは悔しさに歯噛みし、それでも立ち上がって言った。「なら、竜になるまでだ。あの姿なら」。「駄目!」。フィーナが肩を掴んで止める。「リヴァイアサンから、まだいくらも経ってないのよ。次にあの姿になったら、今度こそ命を持っていかれる!」。
膠着の中、ただ一人、テオだけが冷静に空を見上げ続けていた。幾度もの急降下。その軌道を、目で、頭で、なぞり続ける。「……見えました。あの王の、唯一の隙が」。彼は眼鏡を押し上げた。「急降下に入った瞬間だけ、王は軌道を変えられない。速すぎる自分の速さに、体が縛られるんです。それともう一つ――あの瞳は、見えすぎる。ならば、やりようはある」。テオの視線が、ノアの両手に灯る光へと向けられた。空の彼方で、グリフォンが、これまでで最も高く、天へと駆け上がっていった。




