第66話 「空を統べる者」
天を裂く咆哮とともに、グリフォンが黄金の翼を打った。ただのひと打ちで、その巨躯は矢のように青空へと駆け上がる。「上を取られた!」。ヴェルナの声が終わるより早く、王は太陽を背に、一直線に墜ちてきた。速い。目で追える速さでは、ない。辛うじてノアの鼻だけが、大気を切り裂いて迫る気配を捉えた。窓が警告に爆ぜる。「散って!」。四人が左右へ跳んだ直後、王の鉤爪が、祭壇の石床を深々と抉り取っていった。
反撃に転じたのはフィーナだった。急降下から翼を返す、その一瞬の隙。彼女は下段からの斬撃と見せかけ、跳ね上がる刃で翼の付け根を狙う。読みは、完璧のはずだった。だが王の双眸は、その虚実すら見抜いていた。あり得ない角度で身をひねってフェイントをかわし、すれ違いざま、鉤爪がフィーナの左肩を掠める。布と皮膚が浅く裂け、血が滲んだ。「っ……嘘でしょ。今の、完全に読まれてた」。
続く二度目の急降下は、テオの結界を正面から打った。青い光の壁に、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。「一撃で、これ……!」。テオが青ざめた。空の速さと、全てを見抜く瞳。二重の壁が、四人の前に立ちはだかっていた。グリフォンは再び悠然と高度を上げ、雲海の上を旋回する。まるで、獲物の値踏みをするかのように。その濁った赤い瞳が、ちらりと、ノアだけを見た気がした。




