64/75
第64話 「風の社」
戦いの合間、テオの足が、ふと壁の前で止まった。回廊の壁一面に、古い浮き彫りが刻まれている。跪き、祈りを捧げる無数の人々。その祈りの先に立つ、大きな何者かの姿。「……変だ」。テオが眼鏡を押し上げ、食い入るように彫刻を見つめた。「封印の社なら、化け物を鎖で縛る場面が刻まれていて然るべきです。なのにこれは――まるで、何か尊いものを、祀っているような……」。ヴェルナが、無言でその彫刻を見上げる。守るもの。一族の伝承の言葉が、彼女の胸の内で静かに疼いた。
その時、回廊の最奥で、重い石の軋む音が響いた。祭壇へ続く内門の前、台座に蹲っていた一対の石像が、ぎしりと翼を広げ、風をまとって起き上がる。社を守る、風の番獣。その双眸に青白い光が灯り、侵入者たる四人を真っ直ぐに射抜いた。




