第60話 「雲の頂を目指して」
魔鳥を追い払うと、町の人々が、おそるおそる家から顔を出した。老人を救った四人を見る目に、初めて、わずかな信頼が灯る。ノアは皆の前で、窓を掲げて告げた。「眠り病の元は、頂の封印にある。僕たちが、それを断つ」。ミラが、信じられないという顔で目を見開いた。「あの頂に……? 雲の中は嵐で、近づいた者は、誰も戻らないのよ」。
頂への道は、険しかった。かつては巡礼の道があったというが、今は嵐に阻まれ、長らく誰も登っていない。ヴェルナが竜の翼を見やり、首を振った。「飛んで運ぶにも、私一人では全員は無理だ。あの嵐の中では、なおさらな」。テオが結界で風を防ぎ、自らの足で登るしかない――四人の覚悟は、すぐに決まった。
出立の朝、ミラが薬包を手に駆けてきた。「これを。気付けと、傷の手当てに使って」。その後ろの部屋では、まだ年端もいかない少女が、青白い顔で眠り続けている。ミラの、たった一人の妹だった。「あの子を……みんなを、お願い。私はここで、一人でも多く、目を覚まさせてみせるから」。ノアは深く頷き、窓に短く綴った。「必ず、止める」。四人は、渦巻く雲の峰へと、一歩を踏み出す。荒れ狂う風の向こうに、天を衝く古い社の影が、おぼろげに見え始めていた。次なる封印の守護者が、嵐の頂で、静かに彼らを待っている。




