第59話 「目覚めぬ者たち」
ミラの話は、深刻だった。「ひと月ほど前から……ちょうど、空が荒れ始めた頃から、町の人が、次々と眠りに落ちるようになったの。一度眠ると、もう目を覚まさない。少しずつ弱っていって……特に、子供たちが」。彼女は唇を噛んだ。「お医者様も、匙を投げた。私の薬草でも、進みを遅らせるのが、精一杯」。
ノアは、研ぎ澄まされた鼻で、町に漂うかすかな淀みを感じ取っていた。あの、リヴァイアサンの封印で嗅いだ瘴気と、同じ匂い。それは間違いなく、雲の上の峰――次の封印の方角から、風に乗って、町へと流れ落ちていた。窓に文字が灯る。「封印が、漏れている。この眠り病の元は、あの頂だ」。テオが、顔を強張らせた。
その時、けたたましい風切り音とともに、空から巨大な影が舞い降りた。鋭い嘴と鉤爪を持つ、鷲に似た魔鳥。荒れた空に棲むその獣が、餌を求めて町を襲っているのだ。逃げ遅れた老人へ、魔鳥が急降下する。だがノアは、脚の力で一足に間合いを詰め、振り下ろされた爪を、光の刃で弾き返した。フィーナとヴェルナが加勢し、ミラは怯えながらも、薬棚から飛び出して老人を抱え、安全な物陰へと引きずっていく。その目には、恐怖よりも、町を守ろうとする、強い光が宿っていた。




