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第49話 「深淵の主」
谷を越えた先は、底の見えない、巨大な縦穴の縁だった。そこから漂ってくるのは、深い闇と、強烈な圧。ふいに、その闇の中から、ぬらりと光る巨大な眼が、二つ、ゆっくりと開いた。縦穴を塒にしていた、深海の主――無数の触腕を持つ、巨大な軟体の魔物だった。
太い触腕の一本が、岩壁ごとなぎ払うように、四人へと振るわれた。フィーナが転がってかわし、ヴェルナが槍で触腕を突き払う。だが、相手は数多の腕で、四方から同時に襲いかかってくる。「数が多すぎる! さばききれない!」。テオの結界も、ドームの維持で手一杯だ。
ノアは脚の疾さで触腕の間を駆け抜け、その中心――ぬめる巨体の、急所と思しき一点を見抜いた。「胴の中心、核がある!」。フィーナとヴェルナが左右から触腕を引きつけ、開いた道を、ノアが一息に駆け抜ける。剥き出しになった核へ、渾身の光の槍を撃ち込んだ。深海の主は声なき断末魔に身をよじり、無数の触腕を力なく垂らして、縦穴の底へと沈んでいった。




