2.転移させられた
意を決して仕事を探し始めたエースだったが、いつの間にか眠りについていた。
情けない奴だ。彼はもう意志薄弱としている。
でもそういう奴なんだ。彼には働くことさえできない。
もう戻れない。
過去には振り返らない、未来を夢見もしない。
ふと、エースは自分がしゃがみこんだ姿勢になっていると気づいた。
空気は湿っていてどこかかび臭い。その臭いを変に思って目を開けてみると、目の前には鉄格子があった。
茶色い壁と小さな蝋燭の火がゆらめいて……。
身動きを取ろうとすると、自分は鎖で繋がれていることが分かった。
「スマホは……ない!」
ないはずがない。確かに俺は直前の記憶でスマホを持っていた。
これは……誘拐だ! でもなんで俺が? 安アパートでその日暮らしの俺がなんで持ってかれる? 犯人の目的は……俺の身体か! 臓器売りだ! ちくしょう!
エースは項垂れた。
ここで大声を出しても助けは来ないだろう。
どこか遠くの方でガタンと大きな音がした。それから人の気配がする。硬い靴底の音が近づいて来るのが分かった。誰でもいい、俺はやって来るのが待ち遠しかった。やっと自分の身に起きたことが分かる気がしたから。来るのは顔に傷のある大男か、それとも背広を着たスマートな西洋人か、たぶん古着を着たアジア人だろう。
そんなことを考えていると近づいてきた足音はやはりここへ来た。だが予想が外れた。現れたのは胸当てを付けた中世の兵士のような男だった。
「起きているのか?これから国王の謁見がある。立て」
その兵士が錠を外すとエースはしぶしぶ立ち上がった。
国王の謁見と兵士は確かに言っていた。
国王が何んだとかはどうでもいい。
俺は死刑台に向かう気持ちでいた。
多くは語らない。
現世に悔いもない。
それは俺が眠る前に決めたことだ。
この先どんな不幸や苦痛が待っていようとも、俺はそれを受け入れる。
誰かを恨むことはない。これが俺の役目なんだ。
「でも……拷問は嫌だな……」
エースは歩きながらぽつりと口に出していた。兵士はそれを聞いて少し笑いを漏らした。
「拷問か。もっと酷いかもしれんぞ?」




