第19話 《初めてのアルバイト》
文化祭も俺達のクラスの完全優勝で終わり、またいつもの日常が戻ってきた。
昼休みの教室で、柚月と共に昼食を取っていた。先に弁当を食べ終えた俺はスマホでSNSを眺めていると、ゲームの新作情報を見つけた。
今年の春頃、大手ゲームメーカーが集まる発表イベントがあり、ネットは大いに盛り上がった。だが、イベント終了後も各社は小出しで次々と新情報を公開していた。
今日もまた新情報が各メーカーから発表され、トレンドはゲーム関連で埋まっていた。
「新作ゲーム情報発表されてるな。おっ、新情報解禁してきてるじゃん」
「なんかふぃのはったぁ?」
柚月は口にご飯を頬張りながら喋った。俺は何とか言った言葉を聞き取れた。
「飲み込んでから喋れよ……。そうだな―――あっ、これって柚月が好きなゲームの新作だよな? なんか予約特典の情報が更新されたみたいだぞ」
柚月は口に入っている食べ物をゴクリと飲み込むと俺のスマホの画面を覗き込んだ。
このゲームは柚月が好きなほのぼの系のゲームでオンラインでは協力して町を発展させるというものだ。
俺も一緒にやっているが柚月はこのシリーズが好きで色々特典が付いてくるDXパックを買っている。
しかし毎回新作が出るたびに特典内容が豪華になりそれと同時に値段も上がっている。そのため、今回俺は特典が無い通常版を買おうとしていた。
「ほらここにDXパックの情報出てる。結構な値段するけど今回もDXパック買うのか? 俺は通常版にするけど」
「買いたいけどここ最近金欠なんだよね……」
「なら俺と同じ通常版にするか?」
「でもDXパックについてくるこのポーチとか設定資料集とか全部欲しい! 何とかして稼がないと……」
「それならバイトしてみるか? 発売まで1ヶ月以上先だし何とかなるだろ」
「アルバイトかぁ。興味はあるんだけどね。そもそも高校アルバイトしていいんだっけ?」
「確か1年生の夏からOKだったはず。他に条件あったかな?」
ちょうどそこへ竹内が教室に戻ってきた。
竹内ならこういうことに詳しいだろう。
俺は竹内を呼び止めた。
「竹内。ちょっと聞きたいんだけど」
「なに?」
「高校ってバイトするのに条件ってあったっけ?」
「特になかったはず。でもバイトする前に学校側に届けを出さないといけないけどな。鷹尾、バイトするのか?」
「いや、俺じゃなくて柚月がバイトをしようか迷ってて」
「小鳥遊がか。どんなバイトやりたいんだ?」
「えっと、接客はちょっと無理だからそれ以外なら……。あと短期バイトで探しているだよね」
「接客以外で短期バイト―――あっ、それなら梨の収穫バイトやってみないか? 祖父母が農園やっていて今度の土曜日に行くんだよ。もちろん俺も行くことになってるけど」
「それなら僕でも出来そう。ねぇ、奏汰も一緒に行こ? てかついて来て」
「どうせそう言うかと思ったよ。俺も一緒に良いか?」
「もちろん。人手が多いほど良いから歓迎するよ」
「それじゃ俺もお世話になるかな。因みにそのバイトの詳細は?」
「えっと―――」
竹内がバイトの詳細を教えてくれた。
場所は県外で現地までは竹内の父親が運転する車で一緒に行くらしい。土曜日深夜に出発して朝方現地に到着したら収穫などの手伝いや納品のための箱詰め、他の畑仕事の手伝いなどを夕方頃まで手伝う予定だ。地元に帰るのは20時頃になるらしい。
そして当日土曜日の深夜3時頃。俺は柚月と共に待ち合わせ場所のコンビニで待って居た。
辺りは真っ暗でいつも多くの車が行き交う通りには車が全く走っていなく、怖いくらい静かだ。
柚月はまだ眠いらしく地面に座り着替えなどを入れたバッグを抱きながらコンビニの壁に寄り掛かっていた。
スマホを見ながら待って居るとガラガラの駐車場に一台のワンボックスが入ってきた。
車が停まると助手席から竹内が降りてきた。
「二人ともおはよう。荷物後ろに入れるから持って来て」
「分かった。柚月起きろー」
「ふぁ~……」
柚月は大きなあくびをするとゆっくり起き上がった。
トランクに着替えなどが入ったバッグを入れ俺と柚月は後部座席に座った。
運転しているのは竹内の父親だ。知的な感じの竹内とは違い力仕事をしている感じの見た目をしている。腕の筋肉がすごい。
「初めまして、鷹尾です。お世話になります」
「小鳥遊です」
「それじゃ出発するか。ここから3時間ほどかかるから寝ていていいぞ。途中休憩でサービスエリア寄るからな」
「分かりました」
俺達が乗った車はコンビニを出て目的地へ向かった。
近くのインターチェンジから高速道路に乗って行くらしい。
柚月は再び眠ってしまっていたが俺は逆に早朝の街を見ていたくて外を眺めていた。
しばらくすると車は高速道路に入った。見たことのない光景でなんだかワクワクする。
そろそろ県を超えるくらいの頃に休憩のためサービスエリアに入った。
「柚月起きろ~」
「ふぇ? もう着いたの?」
「一旦休憩だってさ。竹内と俺は飲み物買いに行くけどどうする?」
「僕、トレイ行く~」
「そんじゃ建物内のコンビニ行ってるぞ」
「分かった~」
車を降りると風が涼しくて気持ちが良い。
柚月はフラフラとトイレがある方へ歩いて行き、俺と竹内はサービスエリアにある建物へ入った。
店内にはフードコートやお土産コーナー、コンビニなどが入っている。
「あとどれくらいで着くんだ?」
俺の質問に対し竹内はスマホでマップアプリを開いた。
「えーっと、今ここで目的がここだから大体あと2時間くらいかな」
「まだ3分の1か」
コンビニでおにぎりやパン、飲み物を選んでいると柚月がやってきた。
まだ眠いのか少し覚束ない足取りだ。
「ちょっとした食い物と飲み物買っていくけどどうする? あと2時間くらいかかるらしいぞ」
「飲み物は持って来てるから大丈夫。僕はもうひと眠りするよぉ~」
そう言うと柚月は大きなあくびをした。
俺と竹内はパンやおにぎりと飲み物購入して3人で車に戻った。
椅子に座るなり柚月は再び眠ってしまった。
俺も途中まで起きていたが気が付けば寝てしまっていたみたいだ。気が付いた時には高速道路を降りていた。
日も登ってきていて薄っすら明るくなってきている。周りには畑や田んぼなどがありのどかな風景が広がっていた。
しばらく走っていると農園や畑がある一軒家の敷地に入った。どうやらここが今回お世話になる農家らしい。俺達は車を降り荷物を荷台から降ろした。
玄関では竹内の祖母が俺達を迎えてくれた。
「あらあら、いらっしゃい」
「婆ちゃん久しぶり。この二人が電話で話したクラスの友達だよ」
「お世話になります。鷹尾って言います。で、こっちが―――」
「小鳥遊です。よろしくお願いします」
「わざわざ遠くからありがとうね。来てさっそくだけど収穫お願いしようかしら。理仁、二人に教えてあげてね」
「分かった。二人ともこっちに来て」
荷物を置き、竹内と共に家の裏にある物置小屋へ向かった。
そして今更だが俺は竹内の下の名前を知ったかもしれない。
物置小屋の中には収穫した梨を入れるプラスチック製の入れ物とハサミなどが置かれていた。
「梨が袋に入っているからハサミで切ったらこの箱に並べて入れて。袋はそのままでいいから」
「袋が付いたのは全部収穫しちゃっていいの?」
「うん、いいよ。脚立もあるから届かなかったら使っていいから。あとこれ、軍手とエプロン使って」
「サンキュー」
「ありがとう」
「それじゃ収穫するか」
俺達はエプロンを着て、道具を持ち鳥対策だろう青いネットで囲われた農園内へ入った。
数多くの木がありそこらかしこに梨が入っている袋がぶら下がっていた。
俺達は竹内の手本を見た後、各々収穫を開始した。梨が入った袋を持ち上の方をハサミで切りそれをカゴへ入れていった。
黙々と作業した。遠くの方では竹内の祖父と祖母、父親も収穫を始めていた。
やっぱり手慣れているため収穫スピードが段違いだ。
気が付けば農園内ほとんどの梨を収穫し終わっていた。
梨が入ったカゴも凄い数だ。
「結構収穫したね」
「でもまだまだあるな。なぁ竹内。これってどれくらい収穫するんだ?」
「袋に入っているのは出来れば今日中に収穫したいって言ってたよ」
「全部か。となるともう少しか」
休憩しつつ収穫をしていると竹内の祖母がこちらへやってきた。
「小鳥遊さん。ちょっといいかしら? 手伝ってほしいからついて来てちょうだい」
「あ、はい。分かりました」
柚月は竹内の祖母と共に母屋の方へ歩いて行った。
俺は竹内と共に収穫し続けた。




