第20話 《労働と御馳走》
梨の収穫を全て終えた俺と竹内は、竹内の父親や祖父と一緒に、収穫した梨の入ったカゴを台車に載せ1か所に集めていた。そんな中、母屋へ行っていた柚月が小走りで戻ってくるのが見えた。
「こっちに居たんだね。朝食の用意が出来たから手を洗ったら母屋の大広間に来てだって」
どうやら柚月は朝食の手伝いに行っていたらしい。
俺達はエプロンを脱ぎ、手を洗った後、朝食が用意されているという大広間へ向かった。
畳敷きの大広間の座卓上には焼き魚や煮物、味噌汁に漬物などまるで絵に描いたような日本の朝食が用意されている。
竹内の祖母が急須で人数分のお茶を入れ並べていた。
「収穫お疲れ様。どこでもいいから適当に座ってね」
「それじゃぁ俺はここで」
「僕、奏汰の隣~」
俺は柚月と共に座卓の前に敷いてある座布団に座った。
味噌汁から立ち上る湯気。そこから漂う優しい出汁の香りが食欲をそそる。
全員が座布団の上に腰を下ろした。
「全員揃ったわね。それじゃいただきましょうか」
『いただきます』
俺達は手を合わせると朝食を食べ始めた。
労働の後の飯は凄く美味い。箸がどんどん進む。
煮物は味が芯まで浸みていて噛むたびにじわっと旨味があふれ、口いっぱいに広がっていく。
旨味を極限まで吸った大根なんて箸簡単に切れるほど柔らかくなっている。
「この焼き魚ホクホクだし煮物も味が染みてて美味しいです」
「うれしいわ。その煮物は小鳥遊さんが作ってくれたのよ」
「柚月が!?」
「えへへ。教えてもらいながらだけどね」
「この子きっと良いお嫁さんになるわ」
「ちょっ、お婆ちゃん!」
柚月は照れたように頬を赤らめながらも、祖母との会話を楽しんでいるようだった。
朝食を食べ終わり少し休んだ後、竹内と父親、祖父は収穫した野菜を市場に卸しに出かけた。
その間、俺と柚月は竹内の祖母と一緒に家の隣にある畑へ向かった。
目の前に広がる畑には、いろんな種類の季節の野菜が植えられており、青々とした葉が風に吹かれ揺れていた。
「午前中は野菜の収穫を手伝ってもらおうかしら。最初はナスからにしましょうかね」
「分かりました」
俺達は収穫のやり方を教わりながら一緒にナスを収穫していった。
太陽の光を浴びたナスの表面がつやつやで輝いて見える。
収穫したナスをカゴへ入れていると、不意に柚月が声を上げた。
「奏汰見てー。このナス面白い形してる」
柚月が手に持っていたのはまるでキュウリのように細長くカーブを描いているようなナスだった。
よく見ると他にも変わった形のナスがいくつか実っており、二つのナスがくっついたようなもの、まん丸の形のものなどがあった。
「ネットでこういうの見た事あるけど本当にあるんだな」
「お店で並んでいるのは全部形が良いのだからね。畑じゃないと見れないね」
「あら、変な形しているけど味は保証するわ。そうだ、お昼はこの野菜を使って何か作りましょ。小鳥遊さん。またお手伝いよろしくね」
「はい、是非っ」
午前中は祖母に教わりながら野菜の収穫を手伝っているとあっという間に時間が過ぎていった。収穫していると野菜を卸しに行っていた竹内達が戻ってきた。
俺達は作業を切り上げ、昼食を取ることにした。
昼食の用意をしている間、俺は竹内達の手伝いをして、柚月と祖母は収穫した野菜などで料理を作った。
程なくして作業をしている俺達のもとへ柚月がやって来た。
「お昼の準備が出来たよー」
俺達は昼食が用意されている大広間に集まった。座卓には色々な種類の天ぷらが並べられていた。手を合わせた後、俺達は昼食を取り始めた。
「このナスの天ぷら僕が作ったんだよ。食べて食べて」
「上手く出来てるじゃん。それじゃぁさっそく」
俺はナスの天ぷらを食べた。衣はサクサクでナスはとろりとして柔らかい。
他にもオクラやピーマン、レンコンの天ぷらなどをご馳走になった。
午後は俺含めた男性陣は畑の作業など力仕事をして、柚月は竹内の祖母や手伝いに来た近所のお婆さん達と共に梨の箱詰め作業などを行った。
時間はあっと言う間に過ぎていった。太陽が山に隠れ、辺りが徐々に夕焼け色から夜の色に変わり始めた頃、俺達は帰る準備を始めていた。
シャワーを浴び着替えを済ませ、車に荷物などを積み込んでいると竹内の祖父母がこちらへやってきた。
「今日は色々お手伝いありがとうね。助かったわ」
「これ今日のお給金だ。受け取ってくれ」
そう言って竹内の祖父は俺と柚月に茶封筒を差し出した。
俺と柚月はそれを受け取り、声を揃えお礼を言った。
『ありがとうございます』
時給とか一切聞いていなかったが多分1万円くらいか。
しかし触った感じなんだか少し厚みが。もしかしたら1万5千円か? なんて淡い期待を抱いていた。
帰りの車の中では急に疲れが出たのか俺は出発してすぐに眠ってしまったらしい。
市内に入った頃に柚月に起こされた。
「奏汰~。もうそろそろ着くよ~」
「ん? あぁ、もう地元か」
「ふふっ、奏汰かなり疲れていたんだね。ずっと寝てたよ。サービスエリアに寄ったのに起きなかったし」
「久々の肉体労働だったからな。筋肉痛になりそうだ」
「これ途中のサービスエリアで買ったお茶ね」
そう言って柚月はお茶のペットボトルを差し出してきた。
俺は礼を言って受け取り一口飲み、ふと車窓から外を見ると見慣れた街並みが広がっていた。
車は朝と同じコンビニに入ると俺と柚月は車から降り荷物を取り出した。
「竹内、今日は色々とありがとうな」
「こちらこそ助かったよ。それじゃぁ二人ともまた学校で」
「おぉ、またな」
「また明後日ね」
車が見えなくなるまで見届けた俺と柚月はずっと気になっていた封筒の中身を確認してみることにした。
「いいか? せーので見ようぜ」
「なんだかドキドキするね」
「開けるぞ。せーのっ」
中を見ると2枚の札が見えた。取り出すと1万円札が2枚も入っていた。
額に汗して掴み取った人生最初の給料。俺はこの重みは一生忘れないだろう。
他にも色々欲しかったものが買える。何を買おうか考えていると柚月のお腹の音が鳴った。
「えへへ、僕お腹空いちゃった。夕飯まだから何か食べに行かない?」
「良いな。そんじゃこの辺りで何か食っていくか。何か食いたいものあるか? 俺は何でもいいけど」
「ん~……あっ、駅前にオープンしたって言うラーメン屋行きたい」
「あの店か。俺も気になっていたんだよな。そんじゃ行くか」
俺達は家に帰る前に駅前のラーメン屋に向かった。
夕飯時のピークはすでに過ぎていたため、並ぶことなく店に入ることが出来た。
俺と柚月はそれぞれ食券機の前に立ち、ラーメンを選んだ。
「どれにしよう? 奏汰はどれにする?」
「俺は―――この全部乗せラーメンにするかな」
「それじゃぁ僕も同じのにしよっと」
予想以上の給料が入ったこともあり、俺達は普段ならなかなか手が出せない全部乗せラーメンを注文した。
席に着き、運ばれてきたラーメンを一口すすった瞬間、思わず頬が緩んだ。
自分で稼いだ金で食べるラーメンは、どんなものよりずっとずっと格別に美味かった。




