表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第一章:廃ビルの夜
7/27

第7話 魔法少女1

 廃ビルの3階から、マーキュリーは街の様子を見下ろしていた。


 傍に立ったひなたが尋ねる。


「ここって、いったい何なんですか……?」


「クリフォトだ」


「クリフォトっていうのは、何ですか?」


「それは」


 マーキュリーは口元に手を当て、美しい彫刻のように動かなくなった。


 何か教えてはいけない理由があって言えないのか、どう説明しようと悩んでいるのか、それとも単に知らないのか、ひなたには判別が付かなかった。


 やがて、マーキュリーは瞳を冬の日の夜空のように瞬かせ、ひなたに言った。


「この空間のことだ」


「な、なるほど……!」


 マーキュリーはゆっくりと頷いた。


 どうやら、いまひなたが居る場所は地球のようで違う場所のようだ。


 異世界なのか、別時空なのかは分からないが、その名称をクリフォト、というらしい。何処かで聞いたことのあるような気がしたが、思い出せなかった。


「それで、これはどうすれば?」


 ひなたは尋ねた。


 手元には、マーキュリーから渡されたスマホケースがあった。


 オレンジ色をベースに、輝く日輪の文様と、揺らめく陽炎が四辺に描かれている。なかなかにハイセンスで、お嬢様学校で使うにはやや目立つデザインだ。


「それが、君の杖だ」


「杖」


「そうだ」


 それきりマーキュリーは外に目を向けてしまった。


 ひなたはバイトで学んだことを思い出した。いつまでも質問してばかりの指示待ち人間でいてはいけない。自分から、動けるようにしないと。


 ひなたは、高校入学祝いに買ってもらった新機種スマホの初期ケースを外し、オレンジ色の新たなスマホケースを装着した。その機種専用に作られたかのようにぴったりとフィットした。


 悪くない。


 まるで自分の魂の形に合うかのように、スマホケースは手に馴染んだ。


「おお~」


 この世界ではそれが当たり前なのか、電波はなかった。


 ひなたはマーキュリーに質問しようと近づいた。


 マーキュリーの視線の先には、道路の上に群がっている筋肉と爪の化け物たちの姿があった。


「もしかして、私はあれと戦うんですか?」


 マーキュリーはその質問に対して、ひなたを一瞥しただけだった。


 そして、彼方を見つめながら言った。


「来るぞ」


 数瞬の静けさを置いて、鋼鉄を切り裂くような剣戟が遠くから聞こえてくる。そこに、リボルバーを何発も連射するような雷火の炸裂音が轟いた。


「魔法少女が、来る」


 道路の向こう側から、真紅の外套を翻し、何かが高速で飛び跳ねているのが見えた。


 赤ずきんのような女の子だ。


 それは跳ね回りながら、信じられない速さでこちらに近づいてくる。


 いったい時速にして何十キロ出ているのだろう? 決して人間の足で出せる速度ではない。それどころか一度の跳躍で、5メートル以上は飛び跳ねている。


 人間ではありえない運動能力だった。


 赤ずきんは公道を爆走する自動車並みの速さで、ビル壁、街灯を蹴り飛ばし、さらに加速した。そして両手に二丁拳銃を構えると、道路の先へ向かって発砲した。


 静かだった廃ビルの周辺に、硝煙が漂い、火薬の炸裂音が響き渡る。


「あれが魔法少女……? 私たちも変身して、さっきの怪物と戦うんですか?」


「いいや」


 マーキュリーは言った。


 赤ずきんの放った銃弾は、白銀の輝きを放つ大剣によって防がれた。


 銃口の先には、銀色の美しいドレスを羽織り、装飾された大剣を構えた、別の魔法少女が立っていた。


 ドレスに散りばめられた宝石は雪のようで、見事な水色の髪は巻かれていた。お姫様のような格好の青い魔法少女は、その身長ほどもある大剣を肩に担ぐと、赤ずきんの魔法少女目掛けて走り出した。


 驚いて開いた口のふさがらないひなたに、マーキュリーが答えた。


「君たちは、魔法少女同士で戦うんだ」



 *******



「あの……なんか魔法少女さん達、お互い攻撃してるんですけど……あの! あっちの化け物を倒すんじゃないんですかッ!?」


「あん? ありゃ、フィールドに湧く(ポップする)野生動物みてーなもんだ。ただの人間からすりゃ脅威だが、魔法少女の敵じゃねーよ」


「ええ、でも、魔法少女は悪い奴らをやっつけるのが普通で……」


 少年はため息をついて、うさぎに言った。


「お前さぁ、この時代に正義とか悪とかいっちゃうわけ? 今はマルチジャスティスの時代なんだわ、分かる?」どこから取り出したのかコーラのプルトップを開いた。「絶対的な分かりやすい悪なんてもういねーんだよ。戦うもんもいねーんだから、魔法少女同士で戦ってもらうほかねーだろ」


「ええ……」


 少年はコーラを一口飲んだ。大きくげっぷすると、好きなサッカーチームでも応援するかのようなきらきらした笑顔で言った。


「まぁ、見てろよ、おれの魔法少女が勝つから」


 そして、廃ビルから道路へと野次を飛ばし始めた。


「オラ―ッ! いけーッ! ぶっ殺せーッ!!」


 うさぎは廃ビルの目の前で行われる、赤ずきんと大剣を持った魔法少女の戦いを目で追おうとした。


 速い、速すぎる。


 何が起こっているのか理解できない。


 赤ずきんの方は二丁拳銃を立て続けに連射しては、大剣の接近を阻んでいる。一方で大剣の魔法少女は、銃弾を軽々しく弾きながら、だんだんと距離を詰めていく。


 しかし、大剣の斬撃(リーチ)が届く! というタイミングで、赤ずきんは銃弾をばらまきながらその場で回転し、飛びのいて離脱するのだ。


 ばら撒かれる銃弾が散弾のように、青い魔法少女のドレスを撃ち抜く。青い魔法少女は全身に銃弾を受けながら、颯爽と大剣を翻した。


 ドレスには穴一つ空いておらず、血一滴と流れていない。だが、遠目にも苛立っていることは明らかだった。


「ありゃあ! まーた、外しちゃったねぇッ!」


 赤ずきんが叫んだ。


 青い魔法少女は答えずに、大剣を構えさらに赤ずきんへと突進する。


 赤ずきんは再度、弾丸をばら撒いて離脱しようとした。


 ところが、ブーメランのように投擲された大剣が、回転しながら赤ずきんの目の前に迫っていた。


「あッぶないねぇッ!!」


 赤ずきんは間一髪で、銀色の円盤のように回転する大剣を避けた。そこで背を逸らしたせいで、回避の勢いが止まってしまった。


 大剣を放り投げた青い魔法少女が、徒手空拳で目の前に迫ってきていた。


「……ッ!」


 硝子のように美しいハイヒールの爪先が、繰り出される。


 青い魔法少女は、赤ずきんの左手をリボルバーごと蹴り上げた。


 赤ずきんの大口径の拳銃が、くるくると宙を舞う。


 赤ずきんは歯噛みして、とっさに手を伸ばすか迷った。その迷いが彼女を救った。


 青い魔法少女が、すでに手元に戻った大剣を上段に振りかぶっていたのだ。赤ずきんの手が伸びれば、それを一刀のもとに切り捨てる構えだった。


「乗らないよぉッ!」


 赤ずきんは叫ぶと片手の拳銃だけで、銃弾をばらまいた。その場で回転し、さらに距離を取ろうとする。


「それ、無意味だから」


 すでに、大剣を振りかぶっていた青い魔法少女が呟いた。


 赤ずきんは振り下ろされた大剣の一撃をもろに受け、吹っ飛ばされた。


 ――うさぎたちのいる廃ビルの方角へ。


「えっ、えええええええええええッ!?」


 うさぎの目の前に、赤ずきんの魔法少女が突っ込んでくる。爆音と共に、廃ビルはばらばらに崩れ、倒壊した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ