第69話 教義
先ほどと一切テンションを変えずに、透は微笑んでいる。
「質問……ですか?」
尋ねたひなたに対し、透は笑顔のまま頷いた。
「さっきまでの話し合いはクランの利益に関わるものだったからね。もしかして、他にも分からないこととかあるんじゃないのかなって。もちろん、スールじゃないからあんまり詳しくは教えられないけれど、簡単なことだったら教えてあげられるよ」
その隣では星華がぶつぶつと「対価が」「情報の価値が」などと不満そうに呟いている。
「僕はレベル14だし、アスターのレベルは20を越えている。たいていの事には答えられると思うよ」
ひなたとうさぎは顔を見合わせた。
魔法少女について知りたいことは山ほどあった。
ポイントとは何なのか。
ゼロ落ちとは。クランの規模は。公式戦はどのように行われるのか。
しかしそれらよりも今一番大事なことは、廃ビルでの再戦だった。二人はマックで話し合ったことを思い出した。お互いが見聞きしたものを寄せ集めても、まだ分からないことがあった。
二人でひそひそと相談した後、ひなたが尋ねた。
「廃ビルの魔法少女の子が、悪魔を召喚してきたんです。あれって、ただのスキルだとしたら強すぎると思うんですけど、どういう原理か分かりますか? それと、その子とペアを組んでいた子の衣装が変わったんです。あれもスキルなんですか?」
透は小さく頷いて答えた。
「そうか、うん。じゃあ、教義について説明しよう」
「教義?」
「魔法少女ごとの分類のことだよ。カノンとかニューエラとか。プロフィールに書いてない?」
「あ、あれ!」
ひなたはサンライズハートの隣に書いてあった文字を思い出した。あの時戦ったデュナテルミスも、そして目の前のトリスエクレールもニューエラだった。どうやらその魔法少女たちは同じ分類に入るようだ。
「カノンは攻撃特化、ニューエラはバランス型みたいな感じだよ。それで、悪魔をいっぱい呼ぶっていうのは……」
星華が口を挟んだ。
「外典ですわね」星華は両腕を組んで、ふんぞり返って言った。「外典は最強の教義ですことよ。陣地成形とミニオンの召喚。ウィニーからコントロールまでソツなくこなすオールラウンダーですわ」
「ミニオン……コントロ……なに?」
混乱するひなたに、透が補足する。
「アポクリファは後衛型の魔法少女なんだ。クリーチャーを召喚して使役したり、地形を強化して陣地にするような能力が多いんだよ。その悪魔を大量に呼んだっていう子はアポクリファで間違いないと思うよ」
「あ、あの……その教義は何種類くらいあるんですか?」
うさぎがおずおずと手を挙げて尋ねた。自分のだけ、まだ名前が出ていない。自分の教義が本当に存在するのか不安だった。
星華がすぐさま答えた。
「外典、正典、新時代、再解釈の4種類ですわ。いま言った順番で強いですわ。外典には最高の盤面コントロール能力、正典は圧倒的な火力がございますの」*
ひなたが声を張って尋ねた。
「ニューエラは!?」
「アグロにもコントロールにもなりきれないミッドレンジ。中途半端ですわ」**
うさぎも声を上げた。
「ポ、ポストモダンは……?」
「いうなれば手札を削ったり、ライブラリアウトを狙うような奇策で勝つ構成ですわ。最弱ですわ」***
打ちひしがれ、項垂れる初心者二人を見かねて透が言った。
「アスターの言う事は信じないで。彼女は自分がアポクリファだからね。ただ、ニューエラが中途半端っていう自覚は僕もちょっとあるよ。他の魔法少女に比べてパワー不足で器用貧乏なんだ」
「パワー不足、器用貧乏……」
凹み始めた二人に対して、星華は慰めるように言った。
「そう落ち込まずともよろしいですわ。新時代と再解釈で外典の対面に勝つのは、不可能といっても過言ではありませんわ。せめて正典を連れて来ませんと」
透がそれを抑えて言った。
「アスター止めてあげなってば。アポクリファにも弱点はある。機動力がないんだよ。逃げる手段も少ないから速攻や追撃に弱いんだ」
「いいえ、私は逃げも隠れもしませんわッ! 立ちはだかる全ての敵をこの右手で打ち払ってみせましょう!」
「うん、アスターはそうだろうね。でも今、アスターの話はしていないんだよ」
ひなたは寸劇のような会話をし始めた二人を眺めながら、今言われたことを頭の中で反芻していた。アポクリファにも弱点はある。つまり、あの悪魔の魔法少女、強すぎると思っていたルシフェリカにも弱点があるのだ。
機動力がない。逃げる手段がない。
まるでそれらを追い詰めるかのような能力を持った魔法少女が、いま隣に座っていた。ひなたはうさぎの横顔をじっと眺めた。
もしかすると、勝率を引き上げることができるかもしれない。
*アスター個人の考えです。
**アスター個人の考えです。
***あくまでアスター個人の考えです。




