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魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第五章:クラン
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第67話 誰がクリフォトを盗んだの? 2

 ひなたは隣にいるうさぎに顔を向けた。


「まず来週になったら廃ビルに行くでしょ? それで勝って250ポイント回収するでしょ、そこからアスタースチールさんに借金を払えば、来月にはうさぎ引退できるんじゃない?」


「あ、でも、ひなたちゃん。アスタースキームさんに支払うには『対戦』してわざと負けなきゃだよ……」


「うわっ、そうか、ペナルティが増える! うわ~、面倒くさい!」


 ひそひそと相談する二人を、透は微笑ましいものでも見るような目つきで眺めている。


「ふふ。50ポイントは本当に払えるようになったらで大丈夫だからね。こちらとしては、払う意思があることが大事なんだから」


 ひなたは憎々しげに透に目を向けた。


「私が嫌なんです! なんだか借りがあるみたいでムズムズするんです!」


「律儀だね。じゃあ、ここからはただの魔法少女の先輩として話を聞くんだけれど、君たち、そんなにポイントに困ってるのかい?」


 ひなたは犬のように唸っている。信じていたはずの先輩が、冷徹な企業社員の顔をして自分たちに罰金を負わせてきたのだ。いまさら先輩の顔をされても信じられるはずがない。


「嫌われてしまったかな」と透は苦笑して、肩をすくめた。


 うさぎがおずおずと言った。


「私が、残り50ポイントしかないんです……」


 透は飲みかけのストレートティーを吹いた。


「は? いや一体、どうやって……? な、何を買ったんだい!?」


「ちょっと現金に変えたのと、『対戦』で負けてしまって……」


 目の前で小動物のようにぷるぷる震えている女の子が、透には稀代の博徒か何かに見えてきた。何をどう間違ったら、初心者が公式戦(リーグ)前にポイントを溶かすような事態に陥るのだ。


 透はハンカチでテーブルを拭きながら言った。


「げ、現金化はまぁ……分からなくもないけれど。君たちのレベル帯で『対戦』に手を出している子は見たことがないよ。よっぽど腕に自信があるんだね」


 うさぎは両手を振り上げて怒鳴った。


「騙されたんですよ!!」


 思わず身を反らした透に、ひなたが説明する。


「近場に、一か所だけ空いてるクリフォトがあったんです。それで攻略しにいったら、先に入ってる子たちがいて『対戦』を持ち掛けられたんです。……あ、ていうか私のスキルとウルト! あの時からバレてたんじゃん!」


 思い出せば出すほど、怒りが湧き上がってくる。さつきとアキラは巧妙にあの場所に陣取り、最初の話し合いの時からこちらの情報を抜き取っていた。


 怒りの炎を燃やしている二人を見て、透がぽんと手を打った。


「キャンプだね」


「「キャンプ?」」


 二人の声が重なった。透は頷いてから、口を開いた。


「係争クリフォトは、普通に『侵入』する時はかなり近づかないと入れないんだ。だからわざと攻略しないで、クリフォトの入り口で待機する。クリフォトが空いてるように見せかけて、勘違いした初心者が寄ってくるのを待つ。初心者が釣れたら、その場で親切な上級者を装って『対戦』で狩る」


 そのまんま、うさぎとひなたがやられた手口だった。


「これがキャンプ。初心者には内緒でポイント賭けさせてゼロ落ち……すなわちポイント0以下まで追い込むのが一般的なんだ。その方があと腐れもないからね」


 透は淡々と、いっそ感心しているかのような物言いになった。二人は空いた口が塞がらなかった。このアスタースキームとやらのやり口もヤクザめいているが、とんでもない初心者の狩り方だ。


「キャンプか、久しぶりに聞いたなぁ。東京(あっち)で流行ったことは神奈川(こっち)でも流行るんだね」


「ば、盤外戦術すぎる……!」


 嘆くひなたに透が笑いかけた。


「それくらい、皆必死なんだよ。でも、キャンプは能動的に稼げる手段じゃないからね。自分たちよりも強い上級者がやってきたら、何もせず明け渡さないといけないし。その待ってる時間でクリフォトを攻略すればレベルも上がるから、一長一短だね。……ん?」


 透は自らのスマホが震えているのを見た。そしてメッセージを確認して、狼狽えた。


「まずいな」


「先輩?」


 透は慌てたように周囲を見回す。そして、真後ろの座席に座っていた貴婦人が身を乗り出し、こちらのテーブルに顔を出していることに気が付いた。うさぎは気付いていたが、貴婦人が人差し指で静かにするよう指示を出してきていて抗えなかった。


「話は聞かせてもらいましたわッ!!」


 頭にキンキンと響くような声が降りかかり、貴婦人としか思えない少女は頭を引っ込めた。そしてわざわざ席を回り、優雅に髪をかき上げながら、こちらにやってきた。透が額に手を当てて言った。


「星華(アスター)……」


 貴婦人のような格好の少女は、ふくふくとした小さな丸顔にロリータ風の黒のクラシカルワンピースを着こんでいた。リボンと髪飾りはロイヤルパープルで統一され、ゆるく縦ロールに巻かれた彼女の薄紫の髪によく似合っている。フリルに覆われた首元には、馬鹿デカい宝石のついたカメオのブローチが飾られている。


 シルクのショートグローブに包まれた指先が、パニエで膨らんだスカートの裾を摘まみ、小さく会釈してみせた。


「星華(アスター)魔女計画(ウィッチスキーム)代表取締役社長(プレジデント)兼東京都統括マネージャー兼クランリーダー、四方連雀(よもれんじゃく)星華(せいか)ですわ。以後、お見知りおきを」

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