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魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第四章:PvP
60/73

第60話 PvP 12

「さつき、おつかれ~♡ あとはアキラちゃんに任せとけ~♡」


 ルシフェリカは豪邸のような悪魔的装飾に満ちたフロアで、ワイングラスを片手に優雅にくつろいでいた。


 レイトゲームもここまで展開してしまうと、もはや勝敗に関わる要素は少ない。


 タワーマンション中に展開したウコバクの中隊、そして外壁を埋め尽くすほどのインプ、さらにマルコシアスという強力な航空戦力。


 さらに。


「ぶふっ♡ うさうさ先輩の悪魔、おっぱいでっか♡」


 アキラの真後ろには、牛の頭を持ち、筋骨隆々な男性の肉体に腰巻一枚の悪魔――ミノタウロスがいた。


 手に持っているのはムーニーバニーから回収した両刃斧(ラビリュス)だ。まるで主人の指示を待つ武人のように直立不動で佇んでいる。


 魔法少女ルシフェリカのスキル、『悪魔召喚(デヴィル・サモニング)』は死体や倒した相手から悪魔を召喚する能力だった。


 召喚される悪魔は、元となった生物のレベルや攻撃能力を継承することがある。特に魔法少女を倒した時は、強力な悪魔を呼ぶことができた。


 ルシフェリカを扇で煽いでいたインプが、近寄ってきて耳打ちする。


 どうやら8階のテラスで敵を発見したようだ。ルシフェリカはにんまりと微笑んだ。


「ウコバクは待機♡ マルコシアスは射程外からちまちまブレス吐け♡ インプちんは周辺を飛び回って包囲しろ♡」


 指示を出し、伸びをするルシフェリカ。


 あとは待つだけ。スマホを横向きにしてソシャゲを自動周回させつつ、マップを開いた。


 ルシフェリカの放ったインプたちの視界がマップで共有されている。8階で唯一の赤いマーカーに対して、配下の悪魔たちが周囲を飛び回り翻弄していた。


「どれどれ♡」


 ルシフェリカのパッシブスキル『悪魔の目』。


 それは配下の悪魔の視界をそのまま支配(ジャック)する能力だ。マップ上で敵味方の情報は共有されているが、自ら一人称視点で見た方が手に入る情報量は多い。


 ルシフェリカは9階の壁に張り付いているインプの視界を奪った。


 8階では、マルコシアスによるファイヤブレスがテラス一帯を炙るように焼き尽くしている。空中ではインプたちが尻尾を振り回して、サンライズハートの逃げ場をなくしていた。


「んー♡ ウコバク送っても良かったかも~?♡」


 ルシフェリカは言った。これほど完璧に包囲できているならば、10階のウコバクを降ろしても良かったかもしれない。


 と、マルコシアスが息を吸いこみ、次のブレスのために近づいた時だった。


 ひゅんひゅんひゅん――――と風を斬る音がして、マルコシアスの美しい白翼に手斧(ハンドアックス)が突き刺さった。


 サンライズハートだ。


 全身を炎に焼かれながらも、この瞬間を狙っていたのだろう。サンライズハートはベルトに挿した手斧(ハンドアックス)を次々と投擲した。


 倒れたデュナテルミスから奪ったものだった。マルコシアスの翼と胴体に斧の刃が突き刺さる。


「おい、ちょっと……♡ まずくね~?♡」


 翼をばたばたとはためかせるマルコシアスに対し、サンライズハートは最後の手斧(ハンドアックス)を投擲した。


 白い羽根を生やした黒狼は、頭部にクリティカルヒットを受け墜落した。


 まだ戦えるとばかりに爪と牙を向けるマルコシアスに、サンライズハートは飛び掛かった。


 まるで一匹の野性児のように、その背にまたがって白い翼を引きちぎった。


 素手だ。


 ただの素手と裸足にも炎が宿り、マルコシアスが無茶苦茶にされている。さつきが見たら涙と怒号で卒倒するかもしれない。


 やがて、サンライズハートは悪魔の頭に刺さっていた手斧(ハンドアックス)を引き抜いた。まだ動くマルコシアスを屠ろうとしている。


 マルコシアスを助けようと近づいたインプたちが手斧(ハンドアックス)の一閃で、瞬殺された。


 サンライズハートの目線は、ずっと上に向けられていた。自分の下で死にかけている悪魔よりも、それを助けようと飛び掛かってくる悪魔たちを狙っている。


「はぁっ♡ こわ~……♡ やめやめやめ、攻撃中止♡ 下手に攻めたら数が減るだけじゃないし……♡」


 数が減るだけじゃないし。


 あれ、どうして困るんだっけ?


 ルシフェリカはその先のデメリットを思い出そうとした。今回の戦いではほとんど前に出なかったし、うさセンに至ってはレベル4だ。そのせいか相手の行動をずっと過小評価していた。


 敵二人のうち、片方はウルトがないのだ。


 だから、相手のウルトのゲージのことなんて考えていなかった。あれ? 相手がウルト撃ってからどれくらい時間が経った? デュナテルミスが落ちて、ウコバクがけっこう倒されて、マルコシアスまで死んだら、相手のゲージはどれくらい溜まる? ところで、相手のHPは瀕死(あかいろ)?


 ……。


「まっずい……!!♡」


 一斉に下がり始めたインプを狙って、死に物狂いの手斧(ハンドアックス)が投擲される。


 だが、渾身の一投は狙いを逸れた。サンライズハートは射程外に逃げたインプを悔しそうに見送った。そして、ビル外周に張り付いていた、最後のインプに目を付けた。


「総員、撤退ッ~~!♡」


 サンライズハートはマルコシアスの首を絞めて倒すと、ビル壁を蹴って、三角飛びの如く最後に飛び立ったインプを捕まえた。


 腕の中でそれを握りつぶし、彼女の中で力が漲った。99.7%だったそれが、たったいま倒したインプで100%になった。


 本日2度目のウルトが溜まった。


 全身火傷だらけ、傷だらけのサンライズハートは床に降り立った。インプらが空に逃げていく。それらを見上げながら、腰に手を添えた。 



――――――――ULTIMATE♡READY――――――――



「ヘリオスッ」


 狙うは上層。


 ムーニーバニーが袋叩きにあっていたフロアだ。


 うさぎのことを救えなかった後悔から、その場所はマップでも確認済みだった。だいたい12階のあの辺り。サンライズハートは目視で距離を測りながら、握り込んだ光の杖を解放した。


「ケイーーーーンッッッ!!!」


 まるで対空用ビーム兵器のような白色光の束が、一条の光尽となってタワーマンションの高層階を貫いた。

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