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魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第四章:PvP
56/73

第56話 PvP 8

 サンライズハートは頭から墜落してしまった。


 落下のダメージはそれほど大きくもなかった。問題はこれまでに蓄積されたダメージの方だ。前半でウルトを溜めるために無理をしたせいで、今は少量のダメージであっても食らいたくない。


 残りHPは270点。ギリギリ黄色だった。


「ムーニーバニー、大丈夫ッ?」


 サンライズハートは起き上がり、一緒に落ちてきたはずの相方を探した。いない。落下の瞬間にびっくりして気が付かなかったが、落ちてきた穴も塞がってしまっている。


 分断された。


 ただの物理的な落とし穴ではなく、発動すれば確実に「落下させる」落とし穴だった。


 足元で光っていたルーン文字を見るに、これも魔法少女のスキルなのだろう。さすがにレベル7ともなれば複数のスキルを所持しているのが当たり前なのかもしれない。


 サンライズハートはすぐ近くにある階段を見た。ムーニーバニーと共にショートカットしたのは8階。ここはどうやら1階だ。


 急いで駆け上がれば、合流できる。


「うさぎ、今行くからッ!」


 そして、階段に足を踏み入れた瞬間、またしてもルーン文字の刻まれた円環が足にまとわりついた。


 白く輝くルーンが回転し、今度はトラバサミに変わった。顕現した鋼鉄の牙がサンライズハートの足首に噛みついた。


「ぐぅッ……! バカッ! 私のバカッ!!」


 痛い。それだけでなく、トラバサミは噛みついたまま消えない。右足を動かそうとすると、重くて動かない。サンライズハートは走ることを封じられてしまった。

 

 ひゅんひゅんひゅん――――と風を斬る音がして、手斧(ハンドアックス)がサンライズハートに向かって飛んできた。


 思わずガントレットで防いだが、それで右のガントレットはばらばらに砕け散った。


「痛いッスかぁ?」


 狩猟の魔法少女――デュナテルミスが、薄暗い廊下の向こうから歩いてくる。


 その後ろには巨大なスプーンを構えた燃え盛る悪魔たちが兵隊のように付き従っている。狩猟の魔法少女は答えを待たずに二本目の手斧(ハンドアックス)を投擲した。


 サンライズハートはどうにか体を動かして、左手のガントレットでそれを弾いた。右足が、重い。いつものような動きができない。


「避けんなや。もう終わりなんだから、手間増やすな」


 明かりのもとに現れた魔法少女デュナテルミスは、まるで衣装が変わっていた。


 毛皮のロングコートに、内側にはくすんだ灰色の胸当て。非対称だったボトムスは動きやすいホットパンツと、膝当ての付いたタクティカルなニーソックスに変わっている。


 何よりも異なるのは、被った狼風のフードから覗く紺混じりの銀髪だ。どこかムーニーバニーを彷彿とさせる長髪を三つ編みにして垂らし、新たな装いの魔法少女は腰のベルトから手斧(ハンドアックス)を引き抜いた。


「何その格好……!?」


「ニューエラの癖に、知らないんスか? そのまま死ね」


「ふ、不公平ッ!」


 サンライズハートは飛んできた手斧(ハンドアックス)をガントレットで弾いた。


 斧は壁に突き刺さり、左のガントレットはひび割れて破壊されてしまった。と、同時に右足が軽くなった。噛みついていたトラバサミが消えてなくなっている。


 デュナテルミスは舌打ちすると、左手を掲げ、指で空中で奇妙な印を組んだ。二人の間の廊下を、白い糸のような光が瞬いた。


 ル(・)ー(・)ン(・)の(・)罠(・)が(・)、仕(・)掛(・)け(・)ら(・)れ(・)た(・)。


「よっしゃ、仕上げだ。かかれ」


 デュナテルミスが指示を出した。


 ウコバクたちが隊列をなして、狭い廊下を突進してくる。スプーンの上には熱した油が乗せられ、しゅうしゅうと湯気を立てていた。


 サンライズハートは壁に刺さった手斧(ハンドアックス)を引き抜いた。それを空中で振るうと、武器に炎が巻き付く。


「よーし、かかってこぉいッ!!」


 サンライズハートは手斧(ハンドアックス)を構え、身体の手前で振り回した。


 ウコバクたちは訓練された長槍兵のようにサンライズハートの攻撃を防いだ。


 返しにスプーンによる突きが起こり、煮え滾った油が魔法少女にかかる。サンライズハートは熱さをものともせず、スプーンを掴んで一体を引き寄せた。


 手斧(ハンドアックス)で真っ二つにするつもりだったが、他のウコバクたちがスプーンを薙ぎ払い妨害してくる。激しく斬りつけられたウコバクが群れの中に後退する。


 ――あれ、なんだか。硬い……。


 というか、統制とれてる? 


 いつもの雑魚敵(モブ)や、インプのような柔らかさがなかった。おまけに隙も少ない。


 槍の壁ならぬスプーンの壁が、狭い廊下を埋め尽くしている。サンライズハートはスプーンによる面の攻撃をいなし続けた。


 手斧(ハンドアックス)に宿る炎はさらに燃え上がり、腕を振るう速度は上がっていく。


「うぁッ!」


 ウコバクたちの上の空間を縫って、手斧(ハンドアックス)が飛んできた。デュナテルミスだ。斧はサンライズハートの鎖骨に深く突き刺さった。


「しゃあッ!」


 デュナテルミスは吠えた。あと2発か3発でサンライズハートを落とせる。これを繰り返せば……!


 そう思ったデュナテルミスの眼前に、投擲された手斧(ハンドアックス)が飛んできた。


「があああああああああッ……!!!!」


 ヘッドショットによるクリティカルヒット。


 サンライズハートのスキル『コロナサーキュラー』によって高められた攻撃速度は、手斧(ハンドアックス)による投擲にも適用された。


 避けようのない速度で頭部への攻撃を受け、デュナテルミスは激しくのけぞった。


「殺せッ! お前ら、やれぇッ!!」


 デュナテルミスが指示を出す。武器を投げたいま、サンライズハートは無防備だ。


 ところがウコバクたちは狭い廊下で詰まってしまっている。見れば、正面にいたはずのサンライズハートは既に階段を駆け上がっていた。


 んべ、と舌を出し、こちらを挑発するように上の階へ消えていく。


 やられた。


 この狭い廊下で、ウコバクたちの真下にルーン罠はしかけてあった。


 ここで乱戦を行えば、あの魔法少女を倒すことができたのに。デュナテルミスは怒りと額の痛みにうめき声をあげながら、ウコバクに指示を出し階段へと向かわせた。

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