第54話 PvP 6
――これはきっと、ウルトを先に出す戦いなんだろう。
様々なスポーツをやってきたひなたには、いわゆる試合中の『つよい行動』を考える癖がついていた。
まずゲームには流れがある。
さらにその流れの中で、ここでこれをやられると嫌だ、とか。先にこれができると強い、というような状況に応じた『つよい行動』というものがあった。
はじめてヘリオスケインを使用した時、ひなたは思った。
(も、もうぜんぶ、これでいいのでは……?)
具体的に数値のないウルトが果たして、どれだけのダメージを与えているかは分からない。しかし、ウルトは魔法少女が普段使うスキルやら通常攻撃やらとは一線を画したものだと気づいた。
それから、ひなたはウルトのゲージを見る癖がついた。
エネミーを倒した時、ダメージを受けた時。それぞれの場合で上昇率の違いがあり、さらにいえば魔法少女からの攻撃は大きく上昇した。
レベル差がついていることもあって、相手の矢のダメージはとんでもなく大きい。その代わり、ウルトの溜まりも早かった。
だいたい削られたHPの割合だけウルトのゲージが溜まる、とひなたは計算した。
まず、HPを半分くらい犠牲にすれば50%溜められる。
灰色の敵は倒しても何も変わらなかったが、赤マーカーのインプを倒すと一匹で1%ゲージが進んだ。
うさぎに群がっていたインプで約17%。
誤算だったのは、あの白い狼の相棒を攻撃した時だ。敵側の相棒へのダメージも、ウルトのパーセントに変わってくれた。これで15%も稼げた。
約32%を敵で、残りの68%をダメージで稼ぐことできた。
では、次に重要なのは「ウルトを確実に当てること」だ。遠隔攻撃のないサンライズハートには、弓に反撃する手段がない。
唯一の長距離近接攻撃であるヘリオスケインを外せば、後がない。
そこで、逃げたり隠れようのないあの直線の地形を選んだ。正確に言えば、そこに逃げ込むように追い込んだのだった。
「っと……どうかな」
サンライズハートはウルトの被害状況を確認した。ひなたの選んだ直線は走り抜けていった光の杖の砲撃によって、隕石でも滑り込んだかのように抉れていた。
確実に当てるために、少し下向きに撃ったせいか、タワーマンションの方に被害はなかった。
視界の彼方で焼け焦げた何かがゆっくりと起き上がった。
狩猟の魔法少女だ。全身に光エネルギーの塊をぶつけられ、それでもなお緑色の鎧は黒い煤がつく程度で済んでいる。彼女の傍には黒焦げになった白狼の死体があった。
ひなたは自分の甘い認識を改めた。
魔法少女は、必殺技一発当てた所で落とせない。
「そう簡単には行かないか……!」
光の杖を構えて駆けだそうとすると、デュナテルミスは泣き出しそうな顔でこちらを睨んだ。
その表情があまりにも場違いであったために、サンライズハートは思わず足を止めた。
憐れんだり共感を覚えたわけではなく、単純にびっくりしたのだ。うさぎがいつも見せる表情に少しだけ似ていた。
「いやぁぁぁぁッ……! 助けてぇぇぇぇッ……!」
屋上に残してきたムーニーバニーが叫んでいる。
そちらに気を取られている隙に、狩猟の魔法少女は短距離走のようなフォームでタワーマンションの方へ走って逃げだした。白狼に乗っていた時と遜色ないほどの速度が出ている。
サンライズハートは咄嗟に手に持っていた光の杖を、投げた。
まるで投げ槍のように、光の牙と化したヘリオスケインが狩猟の魔法少女の背に迫る。だが距離が足りず、魔法少女の駆け抜けた地面に突き刺さった。
ほの白い球形の爆発が起こった。ヘリオスケインの効果終了時に起こる残光だ。以前に使用した時よりもその効果範囲が小さくなっている。
狩猟の魔法少女は振り返ることなく、逃げていった。
どうやら、残光はギリギリまで使い切らないと爆発の威力が減衰するようだ。
サンライズハートはウルトの効果が終了したことを感じ取った。ゲージはまた0%に逆戻りしていた。
狩猟の魔法少女が戻ってこないのを確認したあと、屋上にいるムーニーバニーに声をかけた。
「ムーニーバニー! こっち、降りて来て!」
滑空しながら落下してくるムーニーバニーに釣られ、大量のインプが降りてくる。驚くことに、数は半分くらいに減っている。サンライズハートはガントレットを振り回し、インプに叩きつけた。
ほどなくして、二人の魔法少女はインプを一掃した。
サンライズハートはぜいぜいと息を吐いているムーニーバニーに抱き着いた。
「うぇっ……? あ、ありがとう……ひなたちゃん」
「こちらこそ! うさぎのお陰で、あの子に追い付いて、ウルトも当てれたんだからっ! ていうか、うさぎ、あの小さい悪魔を何体か倒してくれたの?」
ムーニーバニーは「う」と両刃斧を取り出した。
「こ、これ、適当に振り回してただけ……。密度すごかったから、偶然当たっちゃって……。うう、気持ち悪かった……」
サンライズハートは頷いてまた少し抱き止めてから、ムーニーバニーの身体を離した。ムーニーバニーの成長が自分のことのように嬉しく感じられた。
「ありがと。勇気を出してくれたんだ」
ムーニーバニーは照れたように視線をうろうろとさせた。
「あの悪魔、すごい数に増えてたよね。しかも、弓矢さんの命令を聞いてたような……」
「うん。あの子一人で狼と悪魔まで呼んでたならとんでもないけど……きっと姿を見せてないアキラちゃんの能力じゃないかな。スマホケースも悪魔っぽかったし」
言われてみれば、アキラのスマホケースはパープルでインプの体表と同じような色合いだった。
「分かんないけどね。ただ、じっとしてたらまた大量にやってくるかも。それよりかは今攻撃できるうちに攻撃しちゃったがいいと思う。あ、それと、あの子の乗ってたわんこは倒したよ。本体は、あっちに逃げられちゃった」
サンライズハートは中央にあるタワーマンションを指さした。ヘリオスケインによって抉られ、直線の道はさらに分かりやすくなっていた。
二人の魔法少女は頷くと、巨大な複合建築体に向け走り出した。




