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魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第四章:PvP
53/73

第53話 PvP 5

「今日エイムわる。つか、調子悪いわ」


 デュナテルミスは白狼を走らせ、廃ビルの屋上から別の屋上へと移動した。そして、ルシフェリカに通話を繋げる。


『よ♡ どっちか落とした~?♡』


「なんか赤い方ばっか削れるわ。レベル差もあるし、もうそろHP半分いくんじゃない。インプ全滅したから送って」


『あいよ~♡ また20匹でいい?』


「40いたらどっちか落とせる。うさセンが先かな、足速くてクソダルいし。赤いのは、遠隔ねえからあたし一人でも削り切れるわ」


『ん~……♡ ウコバクも送る?』


 ルシフェリカの声が心配そうなものに変わる。デュナテルミスが焦っていることが伝わったのだろう。狩猟の魔法少女はいつものように渇いた声で笑った。


「はっ、いらねえし。アキラの陣地の防衛に使うって話でしょ。ま、その前に終わらすけど」


『はぁ~い♡ 弓と相性悪いしね~♡』


 通話が切れる。


 ルシフェリカは適当そうに見えて、仕事は完璧にこなすタイプだった。


 1分と待たずに、タワーマンションの方角から追加のインプ軍団が羽根をはためてかせて飛んでくるのが見えた。


 デュナテルミスは廃ビルの屋上から、戦場を見下ろした。白狼の耳を掻いてやりながら、独り言ちる。


「つか、初心者じゃねえじゃん」


 赤い方の魔法少女(サンライズハート)は、咄嗟の判断が早い。楽勝なクリフォトでレベル上げしてきた初心者が、油断するような場面で絶対に油断しない。


 まるで死地を乗り越えてきたかのように、戦闘中の判断に迷いがなかった。


 しかも、その判断が7割方正解を踏んでいる。もう少し慌ててくれれば、その混乱に乗じてHPを削り切れるのに、あの魔法少女は冷静さを崩さない。


 それに対して、うさセンの方は初心者丸出しだった。


 痛くもないダメージに泣き叫び、集団に襲われれば避けるのに手いっぱいになって反撃もしてこない。レベル4でウルトもなければ大した火力も期待できない。


 だというのに、避ける。


 それなりに機動力のある相手でも命中させてきたデュナテルミスだったが、うさセンにいたっては対面でまだ一度も矢を当てられていない。


 第一遭遇(ファーストコンタクト)の射程外からの速射もなぜか外れ、唯一当たったのはインプに襲わせてからのどさくさヒット。


 これらの事実が、デュナテルミスの内面を大きく揺るがしていた。


 狩猟の魔法少女としての力量を試されているかのような相手に、矢を当てられない。


 レベル7にもなる魔法少女として、そんなことがあってはならない。魔法少女としてのプライドが彼女の思考に余計なノイズを生んでいた。


 40匹のインプたちがようやく廃ビルの屋上に集まってくる。デュナテルミスはそれらに指示を出そうと手を掲げた。


 その時だった。


「わっ、わっーーーーーッ……!!」


「いたッ――!!」


 ロケットが発射するかのような爆発音とともに、兎の魔法少女が廃ビルの屋上まで跳びあがって来た。


 その腕に抱きかかえられた陽光の魔法少女がガントレットを構え、廃ビルの屋上に着地する。


 デュナテルミスは即座に弓を構え、矢を放つ。サンライズハートはそれを肩で受けると、まっすぐ白狼に殴りかかった。


 炎を伴ったガントレットの一撃が、狼の顎を砕く勢いで叩きこまれる。痛烈なアッパーカットを受けた白狼は、犬のように鳴いて仰け反った。


 デュナテルミスから見ればちょうど眼前、真下の位置にサンライズハートの頭が丸見えになっていた。


 いまここで弓を連射すれば、ヘッドショットによるクリティカルが大量発生してサンライズハートを落とせる。デュナテルミスは弓を構え、白狼の頭に当たらないよう、しっかりと狙いを定めて放った。


 だが……。


「そりゃそりゃそりゃそりゃそりゃーーーーッ!!!!」


 サンライズハートは、至近距離で放たれた矢を額で受けながら、凄まじい勢いで炎の連撃を繰り出してきた。白狼の相棒(コンパニオン)はその美しい鼻面をボコボコに殴られ続けていた。


 さつきは信じられなかった。


 こんなに可愛い白いもふもふを、なんでそんな躊躇なく殴ることができるのか。


 防御力の低い白狼(リュカ)のHPはガンガン削られていき、あっという間に危険域の黄色に変わった。


「リュカッ……!! 引くよッ! お前ら、足止めしろッ!」


 デュナテルミスは思わず叫んだ。


 彼女の乗っている白狼は鳴き声をあげて、廃ビルの屋上から跳び去った。白狼のHPバーは赤くなり、残りHPは102。


 あと数発、通常*をもらったら沈む。


 幸い、サンライズハートの最後の殴打は空振りした。40匹のインプたちが二人の魔法少女に飛び掛かったのだ。ムーニーバニーも烏のように真っ黒い群れにたかられている。


「待てーーーーーッ!!」


 追ってきた。


 赤い魔法少女は廃ビルから飛び降り、下がろうとするデュナテルミスと白狼の後を追ってくる。


 足止めに向かうインプを空中で次々と屠りながら、日輪を背負った魔法少女が両腕に炎を巻きつけ、ビル壁を滑りながら落下してくる。分厚いヒールが火花を散らし、サンライズハートは大きく跳躍した。


「……死ねッ!」


 デュナテルミスは後ろ向きに矢を放った。それはサンライズハートの心臓を貫いたが、燃え盛る魔法少女を止めることはできなかった。彼女は矢を恐れることなく、突き進んでくる。


 なんだ、こいつ。


 はじめて、デュナテルミスの心に恐怖が生まれた。HPが削れることが怖くないのか? コヴェナントの基本はダメージレースだ。先にHPを削り切った方が勝つ。


 戦いに時間をかければかけるほど、HPの差は如実に戦況に影響を与える。相手はもうほとんどHPだって残ってないはずなのに。


「リュカ、あっち!」


 デュナテルミスは指示を出した。白狼の相棒(コンパニオン)は跳躍力と直進力がある代わりに、小回りが利きにくい。


 この凸凹した廃墟よりは直線の方がスピードが出る。魔法少女を乗せた白狼は、彼女の指示通りに動いた。追いかけてくるサンライズハートから逃れるように、脇道を抜け、広い広い直線の大通りに出た。


 サンライズハートが事前に確認していた、直線に広い空間。


 徒競走には有利で、遠隔攻撃にも有利な空間だった。


 デュナテルミスは風の抵抗をなくすように前傾し、白狼に拍車をかけた。もう反撃など考えない。


 いったんタワーマンションまで退避し、相棒(リュカ)が回復してから再度仕掛ける。彼女の相棒にはお座り(Sit Down)というパッシブ効果があり、安全な場所で休ませてやればHPが高速で自動回復していくのだ。


「はっ! 鈍間(のろま)で残念でしたねえッ!!」


 デュナテルミスは後ろを見た。はるか後方にいる魔法少女がどんな顔でいるか、最後に見てやろうと思ったのだ。


 サンライズハートは奇妙な姿勢を取っていた。


 手を腰に添え、身体を屈め。


 まるで、抜刀でもするかのような。



――――――――ULTIMATE♡READY――――――――



「ヘリオスッ!」


 サンライズハートの手元に白い光が生まれた。


 それは凝縮され、ただ解放されるのを待っていた。


 わざわざ大声で追いかけ回した甲斐があった。直進で最高速まで上がった白狼から避けるべき退路を奪い、上下左右の移動をなくすために。


 サンライズハートは見えない刀を引き抜くかのように、掌中に生まれた光の杖を引き抜いた。


「ケイーーーンッ!!!」


 まばゆい光尽が放出され、白狼と狩猟の魔法少女ごと、正面の道を呑みこんだ。

*通常……通常攻撃のこと。サンライズハートの場合はガントレットによる殴打。

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