第51話 PvP 3
ムーニーバニーたちの居る位置から南東に移動した地点。
マップ中央のランドマークとなる横浜九龍城跡地――そこは中枢となる17階建ての高層ビルと、周辺に乱立する廃ビルが折り重なってできた、コンクリートの要塞だった。
ビル同士は連絡橋で繋がれ、本家九龍城と同じように高低差のある迷路のようになっている。本家との違いは、住む者がいないどころか各フロアに爪の怪物が蔓延っていることだろう。
そして、そんな危険な脱法建築の12階。
外壁が完全に破壊され、外から丸見えになっている大きなフロアで一人の魔法少女が戦っていた。
否、ここに集めた爪の怪物を処理していた。
「雑魚♡ 雑魚♡ 雑魚♡ 雑魚~♡」
黒と真紅のツーカラーで構成されたコルセット風のトップス。胸元には緋色の宝石がさらに輝き、チョーカーのような鎖が首に巻かれている。
ボトムスはハイウェストのフレアスカートで、ガーターベルトとニーハイブーツを履いている。スカートの下からは、ぴょこんと悪魔風の尻尾が伸び、飛膜のある蝙蝠のような羽根がぱたぱた、と動いている。
そんな、可愛らしい外見からは想像できない素早さで、門倉アキラ――魔法少女ルシフェリカは手に持った四又槍を振るった。
ほとんど作業のような感覚で、三本の爪をもつ怪物たちが屠られていく。
ルシフェリカが四又槍を突き刺すたび、胸元の宝石は小さな心臓のように瞬いた。緋色の宝石はだんだんだと赤黒く、血のような色に染まっていく。
そこに、狩猟の魔法少女デュナテルミスが姿を現した。白狼に乗ったまま、この階まで上がってきたようだ。
「おっかえりぃ~♡ ど~だった~?♡」
デュナテルミスは鬱陶しそうに、長い髪をかき上げた。
「赤いのは削った。兎の方がめんどくせぇ。あいつ、空中で矢を避けやがった」
「うっそ♡ デュナの矢、避けられちゃったんだ~♡ うさうさ先輩やるぅ~♡」
「ポスモでしょあの人。アキラ、あの人のプロフでなんか変なスキル見なかったん?」
「えぇ~♡ 教えた通りぃ大ジャンプと小ジャンプとぉ♡ 逃げの速度上がるバフみて~な?♡ カススキル♡」
「よっっっわ。ウケる。それでウルトもねえんだろ。ごちッス。うさセン」
デュナテルミスはムーニーバニーたちのいるであろう方角を見下ろした。
あの二人に遠隔攻撃がない以上、このままかく乱し続けていれば戦いを一方的に終わらせられる。彼女は近くに寄って来た白狼の顎の下を掻いてやった。
「リュカ、さっきの兎の方を追うよ。アキラ、もうそろいけんべ」
「え~♡ もうちょっと溜めたいんだけど~♡」
「もう敵が来てんだよ。さっさとしろハゲ」
「アキラ、ハゲじゃね~し♡ しかたね~な~♡」
ルシフェリカは無造作に続けていた虐殺を、きりよく一匹の死体から四又槍を引き抜いて終わらせた。
胸元の宝石はもはや黒真珠と言っていいほどにどす黒い光沢を放っている。
ルシフェリカが四又槍を床に突き立てると、そこに魔法陣が現れた。ルシフェリカは二本の指でギャルピを作り、魔法陣の上で引き裂くように空間を引っ搔いた。
「悪魔召喚♡ インプち~ん♡ おいで~♡」
ルシフェリカの引き裂いた空間が、紫色のおぞましい別世界に繋がる。
その小さな隙間に鋭利な爪が突き立てられ、赤子ほどの大きさのグロテスクな生き物が、粘液と瘴気をまき散らしながら、こちらの世界に産み落とされた。
ルシフェリカにそっくりの飛膜の付いた翼、細長い手足に不釣り合いな突き出た腹、気分が悪くなるような紫色の肌、そして乱杭の牙が生えた口。
小さな悪魔は鋭い爪と尾を振るい、翼をはためかせて飛び上がった。引き裂かれた空間からは続々と、同じ姿形のインプが生まれ落ちていく。
二十体ほどの生まれたてのインプが、翼をはためかせてルシフェリカの前に整列する。ルシフェリカがピースをすると、数体がその真似をした。
「デュナの言う事聞いてね~♡」
インプたちは耳障りな笑い声で鳴くと、白狼にまたがった魔法少女の周りに集った。デュナテルミスは眼下を見下ろすのを止め、インプたちに振り返った。
「あいつら隠れたな。よっしゃ、お前ら下行くぞ。うさセン集中してボコんべ」
インプたちは笑い声をあげて、新たな獲物の存在に喜んだ。




