第46話 神奈川の魔法少女1
平日の水曜日。うさぎは隣町の駅前で、ひなたと待ち合わせをしていた。
今日の目的地は、隣町の廃ビルだ。
二人が初めて出会い、パトロンと契約をかわした思い出の場所だった。うさぎは今日も念のため、マスクをして同じ高校の子にばれないよう変装していた。
ほどなくして、喫茶店から制服姿のひなたが現れた。
「うさぎ! ごめん、待った?」
「ううん、全然! それよりひなたちゃん、門限大丈夫なの?」
ひなたは悪だくみをするみたいに言った。
「ふふふ。実は家族には早上がりのことを伝えてないのだよ。今から2時間くらい、私は自由なのだ!」
「ひなたちゃん、悪い子だっ」
うさぎはくすくす笑った。
係争クリフォトの奪い合いはどうやら平日の18時から22時が最も活発になるらしい。二人もその時間に活動しないと奪い合いに参加できない。
というわけで、ひなたはバイトのシフトを減らしてもらい、平日の時間を捻出していた。店長にお願いしてのことだったので毎週作れる訳ではなかった。
二人はコヴェナントを開いて、クリフォトを確認した。近辺の係争クリフォトはすでに他の魔法少女によって食い尽くされ、攻略済みのものばかりだった。
ところが、なぜかこの廃ビルのクリフォトだけは未攻略のまま捨て置かれている。
クリフォトの敵が強すぎるのか、強襲を受けやすい立地なのかもしれない。
そして『侵入』するためには保護クリフォトと同じく一定範囲内に入らなければいけないようだった。
二人は通行人が途切れるのを見計らって、廃ビルの中に入り込んだ。
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崩れたガラスの破片や、捨てられたごみを避け、廃ビルのフロアを進んでいく。
心なしか前に来た時よりもペットボトルや菓子パン、煙草の吸殻のごみが増えている。二人がうろうろと歩き回っていると、ようやく『侵入』が輝いた。
「うさぎ、入口あったよ」
「あ、うん。そっち行くね」
そこに、鋭い声がかかった。
「は? なに、お前ら?」
金髪のジャージを着た少女と、黒髪で目つきの鋭い制服姿の少女が、階段から降りてきた。
金髪ジャージの方は眉毛を全て剃っていて、すっぴんのようにも見えた。現れた二人の少女は、制服姿のひなたとうさぎを見て笑った。
「うわ、イモくさ」
「おい、止めろって」黒髪の方がそれを窘めた。口元には半笑いが浮かんでいる。
金髪ジャージは唾を吐いた。その口から怒涛の勢いで詰問が投げられる。
「お前ら、こんなトコに何しに来たんだよ? 勝手に入ってきてんじゃねーよ。あ、てか、その制服。もしかして年上? ユミさん知ってますか?」
「ユミさん、誰……」
「江野中から、野矢高いった人だけど。お前ら、ユミさん知らねえの?」
なおも喧嘩腰の金髪ジャージに、黒髪の少女が言った。
「おい止めろや。この人ら、知らねえっつってんじゃん。つーかアンタ達、何処高スか? この辺の人?」
ひなたは両手を開いて、言った。
「ああ、待って待って。ここで何かしてたなら私たちは邪魔しないよ。ちょっと探し物してただけだから」
「あ?」
黒髪が目を薄めて笑った。
「じゃあウチら代わりに探しますよ。財布っスか。スマホッスか? 見つけたら半額でいいっスよ」
「ど、どっちでもないけど……。なんだかあなた達、圧がすごくない?」
金髪ジャージが目を見開いた。
「あぁ? なにお前。つか、いま喧嘩売ったか? 売ったよなァッ!」
黒髪制服がジャージの肩を掴んだ。背が高くて年齢が分からなかったが、その制服はこの地域の公立中学校のものだ。
「オイ、いい加減やめろっての。つーか用無ぇなら帰ってくださいよ。ウチらみたいな連中、ダルいっしょ」
ひなたは二人の少女を見つめた。
「ダルくなるような絡み方しておいて、自分からダルいとか。何言ってるの?」
「ひ、ひなたちゃん……!」
「あ?」
「お?」
ひなたは腕を組んで言った。
「ユミって、野矢高の榊原弓枝のこと? あいつ、後輩にこんなことやらせてるの?」
「あ……ユミさんのお知り合いっスか? すんませんした」金髪が唐突に謝罪した。顔にはまだへらへらとした笑みが浮かんでいる。
ひなたは真顔で言った。
「いや、別に仲は良くないよ。ごめん、もう行くね。邪魔してすまなかったね」
「すまなかったね、だってさ。草」と金髪。
「やめろや、相手年上だぞ。つか、もうそろ、マジでダルいんで、どっか行ってくれますか」と焦ったように黒髪が睨む。
その時だった。
階段の上からぷきゅ、ぷきゅ、という足音が聞こえてきた。
パステル調のよれた靴下と、泥に汚れた同系統のスニーカー。その子供向けの靴が、廃ビルの床を踏むたびに、場違いな足音が鳴る。
「あっは♡」
廃ビルの奥から、また一人の少女が現れた。
「待って、さつき♡ その人たち、あれかもぉ♡」
「どれだよ」と黒髪が答えた。
その少女は、ゴテゴテのダークパープルに悪魔の尻尾のようなアクセサリがついたスマホを取り出した。
うさぎが「あっ」と声を出した。
まるで特注品のように装飾されたスマホケース。涙袋をたっぷりと滴らせ、バチバチにメイクを決めたパステルカラーの少女が口に手を当てて笑った。
「先輩たちもぉ~♡ 魔法少女なんですかぁ~?♡」




