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魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第三章:レベリング
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第42話 クリフォト コード"闇下り大穢戸比良坂" 7

 ムーニーバニーは泣きながら、サンライズハートに抱き着いた。緑のヘドロだらけだったが、少しの躊躇もなかった。


「ひなたちゃん……! ひなたちゃん、ありがとう! わたし、私、一生斬られて、逃げても逃げても追ってこられて! 今度こそ本当にダメかと思った!」


「ムーニーバニー、良かった。間に合ったんだ。あ、うさぎ、HPいくつ? 私はね……」


 サンライズハートはスマホでプロフィールを開いた。HPは176まで減っていた。抜刀を左手で受けたのが響いていた。


 ULTIMATE(アルティメット)は使用中で、2分と少しのタイマーが表示されていた。これがヘリオスケインの継続時間なのだろう。


「HP116! もうボロボロだよ……今すぐ帰ろうよ!」


「うん。ん? でも、まだ終わってないみたいだよ」


 サンライズハートはマップを開いた。


 まだクリフォトの時間経過は続いていた。それどころか、赤いピンのBOSSが後方車両の方から迫ってきていた。


「いま倒したやつ、ボスじゃなかったのッ!?」


「えっ? まぁでも、そんなに強くもなかったし、どすこいの方がきつかったよ」


「そ、そんな。私、すごく苦戦したのに……」


「今日の敵、どれも防御力低くて攻撃力高そうな感じだもんね。ていうかさ、今日のクリフォトなんかきつくない?」


「きつい! もう帰ろうよ!」


 そう言われ、サンライズハートはクリフォトの残り時間を見た。まだ15分以上あった。


 ムーニーバニーが車両内を駆け抜けたせいで、結果的に敵を集めて連戦する形になったのだ。残り15分間を、今の少ないHPで必死に逃げ回る、というのは一つの手かもしれない。


 しかし。


 サンライズハートは手元に握ったヘリオスケインを見た。


 この光の杖の残り継続時間は2分弱。ボスの到着時間を考えれば、たぶん間に合う。


 そして改めて、プロフィールからヘリオスケインの記述を確かめた。


『ULT ヘリオスケイン――光の爆発を起こす近接武器攻撃。光の武器は持続時間中の継続し、効果終了時に再度爆発を起こす』


「うん。行ける」


「ひなたちゃん!?」


 サンライズハートはお互いにボロボロになっているムーニーバニーに笑いかけた。


「大丈夫だよ、ムーニーバニー。私たちが力を合わせれば、倒せない相手なんていない。だから、協力してほしいの! ね?」


 お願い、とでもいうかのように手を重ねて首を傾けるサンライズハート。命がかかっているというのに、まるでただ遊んでいる時のようにひなたは笑っていた。


 うさぎは恐怖で泣きそうになりながらも、こういう時のひなたが決して間違っていないことを知っていた。


「……も、もう! 信じるからね!?」


「うん、信じて!」


 トンネルの暗闇の中、サンライズハートは傷だらけの顔をほころばせた。



 *******



 地下鉄の最後方車両には、巨大な髑髏を正面に取り付けた蒸気機関車が近づいてきていた。


 兵具搭載鉄路火改(てつろひあらため)御用汽車、その名も"餓者髑髏丸(がしゃどくろまる)卌九号(よんじゅうきゅうごう)"。


 根黒大穢戸線(ねくろおおえどせん)の線路上に起こる多彩なる妖、外法の(わざわひ)を鎮撫するため、公儀によって用立てされた巡行式機動要塞であった。


 たった三車つらなりのその車両は、公儀の屍隠密(かばねおんみつ)をたらふく抱え、線路上で起きた災を早急に鎮圧することが目的とされている。


 いま、その餓者髑髏の顎が開き、武装した屍忍(かばねしのび)たちが次々と車両へ浸透を開始した。


 対外法巫女の武具に身を固め、凄まじい速度で進軍する屍忍たちは、車両内のあまりの惨状に囁き声を漏らした。全身を焼き尽くされ、壁に押しつぶされ、無残に死に絶えた(かばね)たちの姿は、警戒を強めるのに十分だった。


 ――此度の災は、一筋縄ではいかぬ。


 ――だが、我らが総力を突くさば死中に活あり。


 ――然り。


 ――待て。何の気配ぞ……。


 やがて、先の車両から白銀と藍の輝きが、迫ってくるのが見えた。


 ――異常を目視ッ!


 ――相見え(あいまみえ)ッ!


 車両内部に広がり、接近を待つ屍忍たちが各々に武器を構える。


 突貫を崩すための棒手裏剣、絡めとり鈍らすための網縄、外法巫女の動きを止める鎖鎌、そして止めを刺すための忍刀。


 屍忍らは公儀の中でも俊英が揃っている。この者らにとってみれば、外法巫女(げほうみこ)の一人や二人を打ち取ることなど容易であった。


 と。


 その白銀は人ならざる速度で、一直線にこちらに突撃してくる。


 ――用意、射よッ!


 ――放てッ!


 銀光を跡に引き、その場に出現したムーニーバニーに向かい、四方から投げものが投擲される。高速で動く的に当てるのは容易、ただし、この巫女は外法の力にてその場で投げものの囲いを抜けるのだ。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃんッ……!!!」


 青い火がひとつ吹いた。


 たった一歩の跳躍で、ムーニーバニーは全ての手裏剣と、鎖鎌の円を避けた。そこに網縄が覆いかぶさってくる。


「ヘリオス・スラッシュッ!!」


 ムーニーバニーは光刃を振り回す、橙色の処刑人を抱きかかえていた。


 姫を抱き上げるかの如く、両手でもう一人の外法巫女を抱えていたのだ。サンライズハートは、光の杖(ヘリオスケイン)を振るい、振りかかる網縄をすべて焼き切った。


 その光刃は、ムーニーバニーが駆け抜ける間に四度振り回され、唖然となっていた屍忍たちをついでの如く斬り捨てた。


 銀糸のような跡を残し、高速移動する外法巫女は走り去る。そして、その腕に抱えられた巫女は防御不可の光の斬撃を振り回す。


 後部座席に陣取った屍忍たちは、駆け抜ける銀と、光の斬撃によって塵のように散らされていった。



 最後尾車両で、指揮をしていた屍武者(かばねむしゃ)は先行きの屍忍たちが続々と陣内に下がるのを見た。


 外法巫女の勢いやあまりに激しく、その陣を下げるよりなかったのだ。屍忍たちの怒号のような報告が渋滞する中、屍武者は蒸気機関車の顎に手をかけた。


 ――髑髏丸(どくろまる)を起こせいッ!


 ――しかし、あれは禁忌にて! 上様の御下知(ごげち)なくば!


 ――咎は我が身ぞッ! 


 屍武者はそう言って、髑髏丸の操縦席へと乗り込んだ。


 すでに、外法巫女らは眼前の陣に迫っていた。光刃が振り乱され、先ほどまで報告を入れていた屍忍たちが一太刀のもとに斬り伏せられる。


 ――餓者髑髏丸、出陣ッ!!!


 蒸気機関車につけられた巨大髑髏に赤い光が宿る。大きな振動とともに、髑髏がカタカタと口を動かし、巨大な骨の指が眼前の陣を破壊した。


 餓者髑髏丸の本来の姿、それは汽車ではなく、暴れまわる鬼の如き巨妖である。


「ボス、いたよ! ひなたちゃん!」


 目覚めたばかりの髑髏丸の右手が、ムーニーバニー目掛けて振るわれる。


 『一歩(スモールステップ)』を使うまでもなく、それを避ける。


 ムーニーバニーはサンライズハートを抱きかかえたまま、髑髏丸の右腕を駆けあがった。腕骨の上には、兎足のスタンプが可愛く続く。それはまっすぐに、髑髏丸の頭骨と続いていき……。


 サンライズハートは、光の杖が恒星のように鼓動しているのを感じていた。


 終わりが近い。


 ムーニーバニーがさらに跳躍し、迫った髑髏丸の左手を『一歩』で避ける。大きな髑髏の中で、驚愕している屍武者の姿が見えた。


 ムーニーバニーは髑髏丸の頭蓋骨の真上に辿り着いた。


 サンライズハートが光の杖を、頭蓋骨の額に突き刺した。


「ヘリオスケインッ!! アフターグローーーーーッ!!!!」


 幾重もの光の奔流が、切れ込みを入れた頭蓋骨から巻き起こる。


 ムーニーバニーはすばやく跳躍した。そして、頭蓋骨に突き刺さったままのヘリオスケインが、現れた時と同じように光の輝度(カンデラ)をさらに限界まで上げていく。


 白い光の奔流に飲み込まれたトンネル内で、音もなく超新星爆発のような激しい爆発が巻き起こった。その光の爆発から逃れるように、サンライズハートを抱きかかえたムーニーバニーが跳び跳ねた。


「熱いッ! 熱いッ! 熱いッ! 死ぬッ! 死ぬッ!」


「ムーニーバニー、もっと早く早く早く!」


 二人はそのまま爆発を後にして、大きく跳躍すると、半壊した車両の上に着地した。後方の白い光は少しの眩さを伴って収まった。


 トンネルには、腐臭を浄化したかのような涼やかな風が吹き込んでいた。


 ボロボロになって床に転がった二人は、どうにか手を伸ばし、ハイタッチした。



『Congratulations! クリフォト制圧完了!』




 第一部 第三章 レベリング 完

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