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魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第三章:レベリング
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第40話 クリフォト コード"闇下り大穢戸比良坂" 5

「痛い……痛いよぉッ……! 私の右手ぇッ……!」


 うさぎは泣いて走りながら、蚯蚓腫れのように赤い線の残る右手首を見た。確かに切断されたと思ったが、まだしっかりとくっ付いている。


 同じく首も背中も足も斬られた気がするが、少し傷む程度で千切れてはいないようだ。


 今まで、ムーニーバニーはクリフォト内の敵の攻撃をほとんど回避してきた。避けられない攻撃をしてくる相手は初めてだ。


 あんな奴と戦える訳がない。


 とはいえ後ろの車両に逃げれば、今度は力士たちとやり合わなくてはならない。


「ど、どっちも嫌……! ぎゃッ!」


 ムーニーバニーの肩に投擲された手裏剣が突き刺さった。


 逃げ場所を探しすぎて、後ろに気を回せていなかった。振り返れば、後方20mほどの距離まで屍剣客(かばねけんきゃく)と屍牢人が迫ってきていた。


 ――捉えた。追い抜け。


 ――はっ。


 ――承知。


 屍牢人(かばねろうにん)が左右の窓を踏み抜きながら、車両を駆け抜ける。


 抜き様に居合を放つ等という小細工はせず、ムーニーバニーを()()()()ただ走ることにより、追い抜いた。二人の屍牢人はムーニーバニーの正面に立ちふさがると、刀に手をかけた。


 後ろに迫った屍剣客が囁いた。


 ――仕掛けるな。抜き際を避けられ、逃げられるぞ。


 その一言で、屍牢人たちは、ムーニーバニーを居合の圏内に閉じ込めるように距離を離した。


 ムーニーバニーは肩に刺さったままの手裏剣の痛みで動けなくなっていた。手負いの兎の如く蹲ったムーニーバニーに、屍剣客がすり足で近づいてくる。


「も、もうやだぁぁぁぁぁ~……!! なんで、こんな目に遭うのぉ~~~ッ!!!」


 とうとう泣き出したムーニーバニーに対し、屍剣客の眼窩が赤く光った。


 構えから見るに、この巫女の叫びは猿叫。大声を出し、息吹を通すことで、こちらの先の先を封じる手立てだ。屍剣客はそのまま首を落とすために刀を振った。


 が、刀は空を切った。


 ムーニーバニーがまたも避けたのだ。


 割座(わりざ)――平たく言えば、女の子座りの状態から、前傾に倒れ、そのまま前転、車両の床を転がり、椅子を蹴って跳ねた。この間に、『一歩』を2度使った。


 屍剣客は泣き顔の巫女が宙を舞うのをゆっくりと見ていた。眼窩に赤い光が灯る。


 空中であれば、この一刀を避ける術なし。


 (ザン)ッ――! 放たれた横一文字を、ムーニーバニーはさらに青い火と共に跳んで避けた。三度目の青い火だった。刀の刀身の上を、兎の足跡がぽんっと蹴るのが見えた。


 ――()ぃ、()ぅ、()ぃ……!


 屍剣客は腕が千切れんほどの速度で、柄を手元に寄せた。そして最後の『一歩』を使った巫女に、刀の先端を向ける。


 ――()ぉッ!


 神速の突きが、ムーニーバニーの心臓を貫いた。巫女の薄皮を貫き、鮮血が噴き出る。


 (たお)した。


 一人の剣客の放った渾身の一刀は、外法なる巫女を屠るに至ったのだ。


 刀で貫かれたはずの巫女は、俯いていた顔を上げた。


「ぎゃああああああああああああああッ!!!! 刺されたッ! 刺されたッ! 心臓をッ! 刺されたァッ~~~~~!!!」


 その突きは確かに人体の急所を捕えたはずだった。だが、目の前の巫女はただ馬鹿でかい声で泣きわめくばかりで、心肺を失った者に見られる息吹の陰りが見られない。


 まるで転んで膝を擦りむいた餓鬼の如く、わんわんとむせび泣いている。屍剣客は刀を引き抜いて失血させ、今一度、連撃を浴びせようとした。


 ところが、刀は抜けなかった。その切っ先が六寸ほど、巫女の胸に刺さったままになっている。


 まるで肋骨に刺さり、抜かれるのを拒むかの如く、外法の巫女の心臓を突いた刀はそこに刺さったままだった。


 ――こなくそッ……!


 屍剣客はとうとう、ムーニーバニーの顔面を足蹴にし、さらに両手を使ってまで刀を抜こうともがいた。それでムーニーバニーはさらに泣きわめいた。


 ――先生ッ!


 ――助太刀致すッ!


 左右から、屍牢人らが刀を引き抜いた。ムーニーバニーの両手、両足に次々と斬撃が振るわれる。まるで筍のようにその場に坐する巫女を、牢人たちは寄ってたかって斬り続けた。


 もはや、一刀のもとに行われる斬り合いなどではなく、凄惨な虐めのようだ。


「ひなたちゃぁぁぁぁ~~~~~んッ! 助けて~~~ッ!」



 *******



「サ、サンライズ・釣り自爆ッ……!」


 車内の様子は悲惨にも緑色のヘドロだらけになっていた。


 サンライズハート自身もヘドロ塗れだ。サンライズハートは大量の屍乗客(かばねじょうきゃく)らを引き寄せてから、屍力士(かばねりきし)を自爆させる、という戦法を二度繰り返していた。


 爆破の衝撃で自分のHPも削れてしまうが、エリート個体と、モブ集団を同時に減らす最も効率の良い方法だった。


 だが、その方法にも問題点があった。


 屍力士が死亡時にまき散らす緑のヘドロ……これのもたらすフェロモンによって、前後車両の敵がさらに寄ってきてしまうのだ。


 2度の爆発を防いだ左ガントレットも完全に大破し、サンライズハートは刃のボロボロになった刀だけで、新手と戦わなければならなかった。


――御相撲斬り(おすもうぎり)ッ!


――御相撲三人斬り(おすもうさんにんぎり)ッ! その咎を断たんッ!


 前方の車両からは屍牢人が三名現れ、屍乗客の集団も寄ってきていた。


 ムーニーバニーの所へ向かうには、これらに対処して走らなければならない。ひなたはスマホを取り出して、自分のHPを確認した。


 まだHPが十分にあるなら、牢人の攻撃を受けつつ、無理やり押し通ることも視野に入る。


 HP:248/600


 ULTIMATE:98%


「え……?」


 HPはイエローゾーンに突入していた。しかし、それよりも。


 ひなたはHPバーの下に、見慣れないバーが増えていることに今更気が付いた。


 ユー、エル、ティー。


 ULTIMATE(アルティメット)。その記号は、何度出そうとしても出せなかった四番目のスキル『ヘリオスケイン』についていたものと同じものだった。


「まさか……これが溜まってないと、使えないの!?」


 スマホをながら見していると、先に辿り着いた牢人が仕掛けてきた。


 ――余所見とはッ!


 ――首ィッ!


 ――死ねいッ!


 サンライズハートは炎刀で正面と右の牢人をたった一振りで薙ぎ倒すと、左からの斬撃を素手で受けとめた。


 左ガントレットを破壊されたことが頭から抜けていた。そして、素手で刃を掴んだまま、牢人を引き寄せた。


「痛いってばッ!」


 刀ごと目の前に引っ張った屍牢人に膝蹴りをかます。


 牢人はくの字に折れ曲がり、動かなくなった。今の抜刀を受けてしまったせいでHPはさらに減ってしまっただろう……だが、スマホを見なくとも、サンライズハートには分かることがあった。


 ()()()()()()()


 身体の奥底から、力の奔流が湧き上がってくる。


 戦いの中で、静電気のように蓄電されていったエネルギーのようなものが、たった今100%になった。あとはただ、これを形にするだけで良い。


 そう、ただ形を決めて、放出するだけで、この必殺技(ウルト)を使用できる。


 目の前には、武器を構え、暴徒と化した屍乗客の群れが迫っていた。先にこの相手をどうにかしなくてはならない。


 その時だった。


「ひなたちゃぁぁぁぁ~~~~~んッ! 助けて~~~~~ッ!」


 ムーニーバニーの悲鳴。


 サンライズハートの心は、その声が届いた瞬間に着火した。


 そして、やるべきことを見つけた時の、ひなたの判断は何よりも早かった。



――――――――ULTIMATE♡READY――――――――



 居合をするように、腰に手を添えたのは、散々それが速いと見てきたからだった。


 だから、サンライズハートはあるはずのない柄を握り込んだ。


 掌の中に光が溢れ、爆発する直前のように指の間をすり抜ける。サンライズハートはその光全てを凝縮させ、握り込んだ。


 そう、これは一本の武器だ。


「ヘリオス……」


 サンライズハートはその光の束を握りしめ、まるで刀を引き抜くかの如く、前方へと閃かせた。


「ケインッ!!!!」


 眩い光尽が生まれ、屍の乗客たちを吞み込んだ。白い閃光は、電磁波と熱と光を伴って車両の上半分を白く焼き尽くした。

*光尽こうじん:ビームのこと。造語。



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