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魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第三章:レベリング
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第37話 クリフォト コード"闇下り大穢戸比良坂" 2

 大穢戸線(おおえどせん)の車両内は騒然となった。


 藍色と銀の残光を引いて、異装の外法巫女が乗客を轢きながら先頭の車両へと駆けていく。


 彼女の駆けた跡には兎足のスタンプと、踏みつけられた屍の骸が残された。妖の災から逃れようと、先へ先へ、先頭車両へと逃げる乗客たちは唖然となりながら、後ろから逃げてきた兎耳の外法巫女(まほうしょうじょ)に押しつぶされた。


「どいてッ、どいてぇぇぇぇぇッ!」


 ムーニーバニーは駆けた。安全な場所を見つけるまで止まれない。なぜなら、駆けこんだ車両内には必ずといっていいほど、刀を持った屍の牢人が混じっていたからだ。


 ――何奴ッ!


 ――止まれいッ!


 ――斬れいッ!


 慌てふためく乗客に混じり、着流しと菅笠を被った屍牢人(かばねろうにん)が立ち塞がった。そして眼窩に赤い光を灯し、向かってくるムーニーバニーに居合を放つ。


「や、やめてくださぁぁぁぁぁぁいッ!」


 三方の斬撃が兎の足を捉えたかという瞬間、ムーニーバニーの背から青色の炎が迸った。


 『一歩スモールステップ』。


 銀色の直線の軌道が、直角にずれた。本来ならばありえない高速の姿勢制御。これこそがムーニーバニーの異常な回避性能の正体だった。


 うさぎはほとんど本能でそれを行っていたが、敵の必殺の一撃を、高速移動中に軌道をずらして回避し続けていたのだ。


 狭い車両内で、ムーニーバニーの背からは青い炎が三度煌めいた。


 寄ってきた屍牢人たちの抜刀、それらを三度にわたって回避したのだ。ジグザグのZ字に銀色の筋を残しながら、ムーニーバニーは速度を一切落とすことなく次の車両へ消えた。


 残された屍牢人たちは信じられないものを見たような様子で、後を追うか迷った。


 しかし、すぐに後続車両から聞こえてくる悲鳴と、逃げ惑う屍乗客(かばねじょうきゃく)たちの足音に気が向いた。


 ――あなやッ!


 ――助けてたもッ、助けてたもれぇ!


 見れば、後続車両との接続部の窓に屍乗客の顔面が叩きつけられ、爆ぜる所だった。


 屍乗客らが必死に閉じた扉が蹴り破られ、日輪を背負い炎を纏った外法巫女(まほうしょうじょ)が現れた。その金色の篭手は度重なる居合を防いだためか、傷だらけになっていた。


 屍牢人たちはしめたとばかりに、後方の巫女に向かって構えた。巫女はうんざりした顔で嘆いた。


「今度は3体? もう……! ヘリオスケインはどうやったら出るのッ!?」


 ――怪しげなる巫女め。


 ――そっ首落とすぞ。


 ――成敗ッ!


 左右に跳んだ屍牢人に加え、正面からも腰の刀に手を添えた牢人が縮地の如く迫ってくる。


 サンライズハートは居合の初撃をガントレットで防ぎながら、そのまま右拳を真正面の屍牢人に叩きこんだ。斬撃は防げたが、右のガントレットが両断されてしまった。


 左右から迫る、屍牢人の眼窩が赤く瞬いた。


 ――隙ありッ!


 ――首ィッ!


「うぁッ!」


 ひなたの右手と首に、紙で指を切った時のような鋭い痛みが走った。


 居合による斬撃をもろに受け、ダメージを負ってしまったようだ。サンライズハートは唸り声をあげて、さらに斬撃を振るおうと迫る右の牢人の腕を素手で掴んだ。


「ちょん斬れたらどーすんのッ!」


 サンライズハートは屍牢人の身体を引き寄せると、そのまま牢人の頭蓋骨に頭突きをかました。ぐしゃり、と音がして屍牢人の頭が砕けた。


 ――死ねいッ!


 左から迫りくる刀を、左手のガントレットが防いだ。


 サンライズハートはそのまま、裏拳の要領で牢人を刀ごと車両の窓へと叩きつけた。刀とガントレットが鍔迫り合いのようにせめぎ合う。じりじり、じりじりと、ガントレットの表面が屍牢人の頭を窓へと押しつけていく。


 ――ば、化け物めぇ……!


 ごしゃり。


 屍牢人の囁きは、自らの頭が潰される音にかき消された。


 サンライズハートはため息をつくと、手首を裏返してガントレットを調べた。右は真っ二つに裂かれて、もはや使いものにならず、左はあと数回、刀の攻撃を受ければ壊れてしまいそうだった。


「今日のクリフォト、ちょっと敵が強くない……?」


 さらに言えば、新たなスキルである『ヘリオスケイン』もまったく出せる様子がない。


 何度か技名を叫んでみたり、インベントリの時のように脳内でイメージしてみたが、その兆候すらも見られない。サンライズハートは首を振った。出るかも分からないスキルに頼るべきじゃない。


「こんなことなら、先にムーニーサンライズブレードを借りておけば良かったなぁ」


 ガントレットはサンライズハートにとって、盾であり武器でもあるような装備だった。


 そして、攻撃を受けるほどにその消耗も早い。両腕のガントレットが壊れてしまうと、サンライズハートの攻撃力は著しく低下してしまう。


 車両という構造上、ムーニーバニーとの合流を優先するなら、前に進まなくてはならない。


 だが、この縦に長く横に狭い車両内で、敵の持つ刀にはリーチの差で負けていた。今後もこの屍牢人と戦うのならば、相手の初撃をガントレットで防がなくてはならなかった。


「それだと消耗が早いんだよねぇ~……うーん、お?」


 サンライズハートは、右側で頭を潰されたままの屍牢人の死体を見た。そして、その手から落ち、床に転がっている刀をじっと見つめた。

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