第33話 レベリング3
二人はクリフォト後の甘味を求めて、喫茶店にやって来た。
先ほどまで雪原にいたせいもあり、二人は季節外れの暖かい飲み物を注文した。
うさぎがハニートーストをざくざくと切り分けながら言った。
「なんだかクリフォトの中にいる間って、普段より冷酷で残虐になってる気がする……」
ひなたはウインナーコーヒーの生クリームを、スプーンでかき回した。
「それ。それ分かる。私も痛いや怖いことへの耐性が上がってる感じがするもん。現実だとちょっとヤバいなって思うことも、クリフォトだと躊躇なくできちゃう」
うさぎは心配そうな表情で、顔を上げた。
「ねぇ、ひなたちゃん、これって大丈夫なのかな……? 私たち、いつのまにかゲームに洗脳されてない? そのうち人とか刺しちゃわない?」
「うさぎ、うちの爺ちゃんみたい」ひなたは笑った。「大丈夫だよ。魔法少女って、どちらかといえば善行らしいし」
「そうなの?」
「うん。マーキュリーが言ってた。全体的には人類のためになってるって」
「本当かなぁ……」
「少なくとも、嘘を付いてる感じはなかったよ。マーキュリー、変な人だけど悪人じゃないから」
うさぎはハニートーストを食べながら言った。お互いのパトロンについては、外見くらいしか知らなかった。
「いいよね、ひなたちゃんのマーキュリーさん。なんだか聞いてる感じだと、とっても優しそう」
「優しいのかな……? 放任というか、すごく無責任な感じはするけど。でも、ウルサくんだって何でも教えてくれるでしょ?」
「ううん、最悪だよ! もしパトロンを変えられるんだったら、私もマーキュリーさんが良かった!」
「え~」
二人は笑い合いながら、レベルの上がった週末を過ごした。
少し遠出してクリフォトに潜り、その攻略が終われば近場の喫茶店で甘い物を食べて過ごす。このルーティンは、二人の毎週末の楽しみとなっていた。
ひなたがふと店内の時計を見上げた。週末こそ門限は緩和されるものの、遅くなりすぎると家族に心配されてしまう。
「おっと、わりと良い時間かな」
「そろそろ出る?」
「うん」
二人は会計を済ませ、駅に向かった。二人とも家の最寄り駅が違うので、そこから先は逆方向だった。
「うさぎ、今日もありがと。じゃ、また来週もよろしくね」
「うん。ひなたちゃんも、ありがと。またね」
「私が平日バイトなければ、もっと稼げるんだけどねぇ~。ま、仕方ないか。あんまり急いでレベル上げてもしょうがないしね」
「うん、うん!」
うさぎはこの週末の時間を、心から楽しんでいた。
友達と二人で協力して何かするという行為が、本当に久しぶりだったのだ。
うさぎの恐怖心に塗れた高校生活の中で、ひなたとのクリフォト攻略は、いつのまにか、潤いを与えてくれるものの1つとなっていた。
二人は手を振って、別れた。
そして、うさぎはフードを被りヘッドフォンを耳に付けて世界から閉じこもった。日曜の夜の電車はまだいくつも席が空いていた。
ため息が零れそうだ。楽しみはまた来週まで待たなくてはならない。それでも、今までとは違って、希望のある一週間だ。
うさぎは日曜夜の電車から降りる。そしてまだ明るい帰り道を、一人で歩き続けた。




