第31話 レベリング1
「お、レベル上がった」
「あ……私も!」
二人は、動物園に併設された甘味処で軽食を食べていた。クリフォトへの侵入は体力と気力を消費し、特に緊張感からか甘い物が欲しくなる。
サンライズハートはレベル3に上がり、HPがさらに100増えた。能力やスキルに変化はなかった。
そして課金ダイヤ……アプリ内ではポイントと表記されている宝石が、さらに100個増えていた。
ひなたは着実に増えている宝石を、指でなぞった。
「こっちの宝石は、やっぱりレベルアップするともらえるみたいだね」
うさぎは目を輝かせて、レベル2で解放されたショップをタップした。
ひなたがホーム画面を改造していたのが実は羨ましかったのだ。
うさぎはあの動物と村で暮らすタイプのゲームが大好きなのだが、ちょうど流行っていた時期に親が厳しくなってきて、買ってもらえなかった。
うさぎの画面に、家具や食器、そして壁紙と使い魔のリストが並んだ。うさぎは鼻息を荒くして、リストをスクロールした。
「うわぁ、いっぱいある……! 何買おう? ひなたちゃん、次は何買うの?」
「えっとね~、使い魔用に貯金したいんだけど、壁紙だけ換えときたいんだよね」
「わぁ、いいね! 私も先に壁紙だけ変えようかなぁ。あっ、窓もある……!」
二人は、そうしてしばらく、少ないながらもコインの使い道を模索して笑い合った。ひなたはストローから口を離すと、うさぎを見た。その表情が晴れやかな笑顔からにまにましたものに変わる。
「な、なに?」
「いや~、うさぎもはまってくれそうで嬉しいな~って」
「え、え、えっ!? 全然はまってないよ! ただこの内装弄れる機能は楽しいから……」
「じゃあ一緒に続けようよ~」
「つ、続けないよ!?」
「え~」
ひなたはふと思いついて、うさぎに言った。
「あ、そだ。経験値いくつになってる?」
うさぎはレベル2になったムーニーバニーを見せた。現在のEXPは131点。NEXTは300となっている。前回の66点から+65点追加されている。
ひなたはメモを起動して、数字を書きだした。
「うさぎ、今日はボス以外と戦ってないよね」
「う、うん。ごめん……」
「あ、違くてさ。前回が66点で今回が65点だったから、この点数の違いはなんだろ?」
「本当だ。私、先週も今日も、何もしてないのに……」
ひなたは首を振った。
「ううん、そんなことないよ。うさぎのお陰で、怪我しないでボスが倒せてるんだから。ただ、ひとつ考えてることがあってね。うさぎの今の立ち回り方でも、クリフォトを攻略できれば経験値65点くらいは入る。でもレベル3に上げることを考えたら、今の131からだとちょっと遠いよね」
次のうさぎの目標は300点……。1回につき65点前後の経験値と考えると、最低でも3回はクリフォトに潜らないといけない。
ひなたは自分の画面を見せた。
サンライズハートの現在のEXPは339だった。前回の139点から200点も増えている。そしてNEXTは600点。
「すごい……ひなたちゃん、この調子で行けば、あっという間にレベル上がりそうだね!」
「うん。ただ今日のグリーン・バケーションは、ボスの恐竜以外にも中くらいの恐竜がいたでしょ?」
二人は森でのボス戦の前に、ヴェロキラプトル型の敵とも遭遇した。それらは20匹程度の集団で襲ってきたが、サンライズハートが一人で殲滅していた。
「たぶん、普通にクリアするだけで60点くらいもらえて、ボスとか敵を倒した分だけ加算されるんだと思う。ていうか私の200がもらいすぎなんだよね。二人で潜るなら、敵を半分ずつくらいで倒した方が公平なのかも」
「ごめんなさい……」
「あ、違う違う。労力の話じゃなくて。私ばっかりが倒してたら、私ばっかりコインも経験値も集まるんだよ? そんなの不公平でしょ?」
「ううん、そんなことないよ! それは、正当な権利だよ!」
ひなたはじっとうさぎを見た。
「本当に?」
「え、え、えっ……」
「うさぎ、今のままでいいの? 今のまま、私に介護されるみたいに、ボスを倒してもらってちまちまと65点を稼いでいく形式で、この先やっていけるの……?」
ひなたは、突き刺さる日差しのような眼光でうさぎを見つめてくる。
いつのまにか手はそっと握られ、逃げられなくなっている。うさぎは靴底から水位が上がってくるのを感じた。しかし、手を握られているせいで逃げられない。
そもそもうさぎはレベル5になったら引退する予定なのだ。
それなら、今のままひなたにおんぶされる形でも……。
愛想笑いをしようとしたうさぎは、ひなたの表情を見て、息を呑んだ。
ひなたの笑顔は慈愛に満ちていた。
「ひゅっ……」
「うさぎ、私はうさぎのためを思って言ってるんだよ」うさぎの脳裏に母親の顔が浮かび、それがひなたと重なった。「魔法少女を辞めたあとも、人生でこういうことはあるんだから。だからさ、私が一緒にいられるうちに、克服しておこうよ」
「あ、あう……」
「大丈夫だよ。私も一緒に手伝ってあげる! ……それで本当に無理だったら、のんびりレベル上げていこうよ」
「は、はい……ありがとう、ひなたちゃん」
こうして、ひなたによるうさぎの対クリフォト強化月間が始まった。
ムーニーバニー レベル2
EXP66+65→131点 NEXT300
サンライズハート レベル3
EXP139+200→339点 NEXT600




