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魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第三章:レベリング
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第30話 クリフォト コード"白痴の惑星 グリーン・バケーション"

 うさぎとひなたはクリフォトのある動物園近くの公衆トイレに入り込むと、それぞれ個室に入った。ひなたが『潜入』をタップし、うさぎがすかさず『協力』をタップする。


 そして他の人がいないことを確認すると、それぞれにスマホを掲げた。


「――変身ッ!」


「う、うさぎうさぎ、何見てはねるっ!」


 トイレの個室から光が迸る。


 やがてサンライズハート、ムーニーバニーの二人の魔法少女が個室の扉を開けて、姿を現した。


 サンライズハートのスマホが緑色の文字列を示した。


『クリフォトに侵入成功。保護クリフォト コード"白痴(しろ)の惑星 グリーン・バケーション"ID:a4w9edh8szknrm4EB7DC9 位置座標:六月の丘 C-7 良き狩りを!』


 ムーニーバニーは、飛び込んできた光の眩しさに思わず目を閉じた。


「わぁっ……」


 柔らかな風と、日差しが二人の頬を撫でた。


 息を吸い込むと、噎せ返るほどの草花の香りが入り込んでくる。どこまでも遠くまで青空が広がり、積乱雲が彼方に見える山脈に跨っているのが見える。


 二人が立っているのは、小高い丘の上にある草原だった。


 足元には草が青々と生い茂り、周辺には花畑のように色とりどりの花が咲き乱れていた。


 涼やかな風が吹けば、白や黄の美しい花弁が舞い散る。そして風に乗って、たんぽぽの綿毛のようなものがいくつも空へと飛んでいく。まるで、この丘陵に吹く風を楽しんでいるかのようだった。


「うわぁ~……良い天気! 空気も美味しい! 景色も最高!」


 サンライズハートは日差しに顔を向けた。


 強い風が吹いて、花弁とたんぽぽの綿毛がいくつも彼女の髪にまとわりつく。サンライズハートはそれを手で払い、大きく伸びをした。


 ムーニーバニーは驚愕し、びくびくと周囲を警戒していた。


 ここはムーニーバニーの知っているクリフォトと全く様相が異なる。あの息が詰まるような灰も降っていないし、肉の化け物や、鉄のロボットも見当たらない。


「ひ、ひなたちゃん……ここ、おかしいよ。絶対おかしい! クリフォトなのに怖くない……! クリフォトじゃないみたい!」


「うん、すごく気持ちいい所だよね! グリーン・バケーションだって。緑の夏休み?」


「分かんないけど……ここ、絶対良くないよ!」


 狼狽えるムーニーバニーに対して、サンライズハートは朗らかに微笑んだ。


「もしかしたら、クリフォトにも種類があるのかもね。でもさ、前の東京メルトダウンだっけ? あそこも怖いかどうかは見る人に依るんじゃない? あの廃墟のゴテゴテした感じは人によっては好きな人もいるだろうし……。私はけっこう好きだよ、ここ」


「今まで2回ともボロボロの廃墟だったのに、急に自然豊かになるのはおかしくない!?」


「うん、まぁ確かに」


 サンライズハートはそう言って笑うと、スマホを開いた。


「あ、敵の表示も出てきてるよ。さっそく、行ってみよっか」


 サンライズハートは、まだ怯えているムーニーバニーにスマホを見せ、マップ上の赤いピンの方角を指さした。それは、この丘から南西の方角にある森林地帯だった。



 *******



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 ムーニーバニーは銀色の線を跡に引きながら、森の中を失踪していた。


 そのすぐ後ろからは、森中を震わせるような大きな足音を立てて、太古の恐竜……ティラノサウルスが追ってきていた。


 まるでアルビノのように恐竜の全身は白く、近く見ればその表皮には白い黴が生え、全身の皮膚はひび割れている。グロテスクなことに、眼球に当たる部分には巨大な赤と黄の花が咲いていた。


 アルビノティラノは木々をなぎ倒しながら、ムーニーバニーの後ろを正確に追って来た。そして、距離を詰めるとその巨大な顎を開いて、ムーニーバニーを平らげようと頭を近づけた。


「そこッ!」


 そのティラノの顎を、サンライズハートの燃え盛るガントレットが横から殴りつけた。


 顎の骨が砕ける音を立て、古代最強の恐竜は大きく仰け反る。その隙をついて、サンライズハートは恐竜の足元に潜り込んだ。


「サンライズ足払いッ!!」


 サンライズハートの分厚いヒールの付いたブーツが、白濁した恐竜の皮膚にめり込んだ。


 アルビノティラノは大きくバランスを崩し、木々をなぎ倒しながら大地に伏した。土煙が舞い上がり、たんぽぽの綿毛を飛ばす。


 横倒しにされたアルビノのティラノサウルスが唸り声を上げる。恐竜は身体を起こそうとして、しかし力なく崩れ落ちた。


 サンライズハートは木の影に隠れた兎耳フードに声をかけた。


「ムーニーバニー、ほら、斧出して」


「ほ、本当にやるの……? それ、もう動かない……?」


「大丈夫、大丈夫、やっちゃって!」


 ムーニーバニーはびくびくと怯えながら、両刃斧(ラビリュス)を取り出した。それを八相に構え、がに股になり、じりじりと倒れた恐竜に近づいていく。


 やがて、ムーニーバニーが目の前にやって来ると、恐竜は大きく咆哮した。ムーニーバニーは大きく飛びのいた。


「ひっ、ひぃぃぃッ……!」


「大丈夫、相手は手負いだよ!」


 ムーニーバニーは両刃斧(ラビリュス)を構えじりじりと近づいては、吠えられて跳んで逃げるのを繰り返していた。


 サンライズハートが手を出すか悩んでいると、恐竜の眼に当たる部位の花がふるふる、と震えた。


「あ」


 ぞわぞわぞわ……と、恐竜の眼から蔓が何本も伸ばされる。緑色の触手めいた蔓の先には、花弁と毒針のような蕾があった。それらは撓る鞭のように、ムーニーバニーに襲いかかった。


「ひ、ひゃあああああッ!!!」


 ムーニーバニーは間一髪で、蔓の攻撃を避けた。しかし、両刃斧(ラビリュス)を放り投げてしまった。


 サンライズハートはムーニーバニーをかばうために前に出て、空中で両刃斧(ラビリュス)を捕まえた。炎を纏った銀色の刃が振るわれ、一瞬で蔓は焼き切れた。


 サンライズハートは襲い来る蔓を全て焼き切ると、倒れた木に隠れたムーニーバニーに言った。


「うさぎ、どうするッ?」


「やって! ひなたちゃんがやって!!」


「もう……!」


 サンライズハートはため息をつくと、両刃斧(ラビリュス)を振るった。ティラノサウルスの頭部は、その一撃で粉砕された。



『Congratulations! クリフォト制圧完了!』

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