第29話 コインショップ
土曜日の午後。
うさぎとひなたは並んで電車に乗っていた。
二人は事前に計画を立て、行動圏内のクリフォトを洗い出していた。
目標は1週間で最低2クリフォト攻略。
これを続けていれば平日が学校で埋まる二人でも、1カ月でレベルを上げることができるはずだ。
ひなたはアプリで開いた地図で、「!」の表示地点を指さした。
「今日はここ、動物園!」
「こっちに来るの、久しぶりかも……」
クリフォト同士は一定の距離を保って離れているようで、1日に回れる距離には限界があった。
特に学生である二人にとっては、定期券の範囲外になると交通費という面でも財布へのダメージが激しい。なので前日に二人の最寄りから逆算し、その日に向かうクリフォトを厳選していた。
二人は駅から乗り換え、バスに揺られて住宅地を進んだ。
ひなたの画面で、だんだんとクリフォトのピンに近づいていくのが見える。
うさぎはひなたのホーム画面に家具が置かれ、部屋の雰囲気が変わっていることに気が付いた。小部屋の中には小さな椅子があり、その上には可愛らしいクッションが敷かれている。
「え、可愛い。椅子増えてる。ひなたちゃん、それどうやったの?」
「これはね~」とひなたは得意げに笑い、ショップをタップした。
家具、食器や杯、壁紙、装飾品、そして使い魔ペットの購入リストが表示される。
購入物のほとんどは薄暗くなり、コインの資金が足りないことを示していた。
画面の右上には、2つのマークがあった。1つは金貨のマーク。もう1つは水色の宝石のマークだ。
ひなたの残コイン数は480コイン。水色の宝石は100個だった。
「レベル2でショップ解放されたから、さっそく覗いてみたんだよね。コインも2000くらいあったからちょっと使っちゃった」
小さな家具1つはだいたい1000コイン。普通の家具だと5000を超えるようだ。
使い魔ペットの項目には、可愛くデフォルメされた動物たちが、ペットショップのケージよろしく自由に動き回っている。
「わあああ、可愛い!」
「可愛いよね~。使い魔は1万コインくらいするから買えなかったんだけど、私も貯まったら犬欲しいな~」
「え、絶対フクロウ!」
「まって、逆にネズミとかも可愛いよ。これ、一緒に戦ってくれたりするのかな?」
「えっ、やだ……だったとしても、戦わせたくないよ……」
「それは分かるけど、でもさ、動物の相棒みたいでかっこ良くない? 馬とか乗れたりして!」
「ちょっとかっこいいかも」
うさぎは自分のホーム画面を開いた。よく見ると、同じくコインと宝石のマークが右上に並んでいる。うさぎの残コイン数は1170コイン。宝石の方は0個だった。
「私もコインはあるみたい。こっちの宝石は何かな?」
「あー、それはね」とひなたは、ショップ内のタブに触れた。商品のラインナップが、コインのものから宝石を消費するものに変化する。
途端に、赤文字の警告文が画面を埋め尽くした。
内容は『未成年はポイントを使う際に注意しましょう』といった注意喚起を促すものだった。それから購入の際の契約文、つまりよくある法的な内容がずらずらと続いた。
「すごく読みにくいね……何、これ?」
「兄やに聞いたところによると、こっちの宝石は課金でもらえるダイヤ。そんで、さっきのコインはゲーム内マネー」
「えっ……どういうこと?」
「こっちのコインはあんまり気にせず使って大丈夫らしいよ」とひなたはショップの画面をコインのものに戻した。「兄や曰く、ゲームをやってれば自然に溜まってくものなんだって。私も前からコインのマークには気付いてたんだけど、クリフォト入る前は0だったの。それが、クリフォトを攻略したら急に2000くらい入ってきたんだよね」
「うん」
しっかりと覚えているわけではないが、うさぎのホーム画面も最初はいろいろなものがゼロだった記憶がある。
「だからコインの方は兄やの言った通り、クリフォトを攻略したり、クリフォトの敵を倒したりすると勝手に増えるんだと思う。これは推測だけど、トドメを刺した数が関係しているのかもね。あ、そうだ。それで思い出した。うさぎ、今日はうさぎにも敵を倒してもらうからね!」
「え、えっ、えっ?」
「うん、だってほら、経験値必要でしょ? 経験値もトドメを刺した人が多くもらえるみたいだから。先週は私が独占しちゃったし、今日はうさぎに優先的に譲るね」
「遠慮しときたいかも……」
「そんなんじゃいつまでたってもレベル上がらないよ! あ、それでね。こっちの宝石は貴重だから使うなって言われた」
「そうなの?」
「これでしか買えない特別なアイテムとか、ガチャ石になったりするんだって。コヴェナントにガチャとか見当たらないし、よく分かんないけどね。あと、これで買えるのも変なものばっかりだったから、触らないようにしてるの」
変なもの……。
うさぎはひなたの言う商品のラインナップに少しだけ興味が湧いた。自分もレベル2に上がればそれらが解放されるのだ。
上手く行けば、今日中にレベル2に上がれるはずだった。そして、それよりも気になることがあった。
「ひなたちゃん、お兄さんにコヴェナントのこと教えたの?」
「うん。兄やソシャゲ詳しいから。でも魔法少女のことは恥ずかしいから言ってないよ。変なゲーム始めたから、コツを教えてほしいって頼んだの」
「お、怒られなかった……?」
「怒られる? 誰に……? あ、あー。マーキュリーはその辺すごく放任っぽいし、気にしてないんじゃないかな。私、学校で友達に喋っちゃったけど、今の所お咎めもないし」
「えっ、なかったの!? お咎め」
「逆に聞くけどさ、うさぎ、秘密にしろって言われた?」
うさぎは思い出した。そういえばオーソライズをして、変身のフレーズを決めた時も、まさかイオンのフードコートだった。
周囲に人がいっぱいいる中で、ウルサは怒鳴るような大声で、うさぎにコヴェナントの説明をしていた。あれで目立っていない訳がない。
「魔法少女って、バレてもいいんだ……。あれ? でも、クリフォトに入る時は、人避けろって言われるよね」
「危ないからじゃない? 私たちの時みたいに、巻き込まれる人がいるのかも」
やがてバスは大きな段差をいくつか越えて、山道に入っていった。窓の外には並木道に降り注ぐ陽光が葉の影を作っていた。




