第24話 クリフォト コード"廃都東京メルトダウン" 8
「あちち」
サンライズハートは焼き爛れたガントレットを取り外し、グローブを脱いで左手を見た。
手は火傷で赤く腫れてはいるが、想像しているほどひどくはなかった。口で息を吹きかけながら、右手だけでマップを確認する。
赤いボスのピンはまだ距離のある所にいた。
こちらを狙うのを諦めたのか、ゆっくりと青いピンの方―――つまり、ムーニーバニーの方へと進んでいる。
ところが、青いピンはまるで回転するように赤いピンから離れ、見事に距離を保っている。ぐるぐる、ぐるぐると、同じ所を周回するみたいに、追いかけっこを続けているようだ。
「ムーニーバニー、凄い!」
うさぎは逃げるたびに、申し訳なさそうに謝ってくるが、ひなたは彼女の才能に気付いていた。
うさぎは逃げるのが上手いのだ。
ただ脚力があるだけじゃなく、自分と相手のペースを測ることができる。いや、正確には、自分と危険物との距離を読むのが上手いのだろう。
そして、今の状況に限って言えば、この「逃げる」は負傷したサンライズハートの大きな助けとなっていた。
あのまま巨大蜘蛛に追撃されていたら、サンライズハートは確実にやられていた。ひなたは、戦闘の後半になるにつれて、敵の攻撃を避けることがだんだんと難しくなってきていることに気付いた。
最初は単に集中力の問題だと思っていたが、どうやらそれだけではない。小さな痛みや疲れが溜まってくると、明確に攻撃を受けやすくなるのだ。
「あれ、プロフィールの色……」
先ほどまで緑色だったものが、今は黄色に変わっていた。
ひなたはサンライズハートのプロフィールを開いた。そして、特に気にしていなかった、ごちゃごちゃした文字列が黄色くなっていることに気が付いた。
ステータス。
HP:248/600
HP。ヒットポイント。いわゆるゲームで出てくる体力の数字だ。それが今、248まで下がっている。全快が600とするなら、いまはその半分以下。
40%くらいだろうか。かなり減ってしまっている。
その他にも、パワーとかスピードとか根性といった能力値が並んでいる。
サンライズハートの能力値はどれもDとEばかりであまり良い気はしない。しかし、今重要なのはHPだ。HPが40%しかないのというのは、かなり危険ではないのだろうか。
そうして画面をじっと見ていると、248が249に上がった。
回復した!
これをずっと待っていれば、ちょっとずつ回復して全回復するのでは?
しかし、ひなたが1分待ってみても数値は動かなかった。どうやらHPは何もしなければ本当にゆっくりとだが回復していくようだった。
そしてマップに戻ると、制限時間は残り10分を切っていた。
あと10分で、あの巨大蜘蛛を倒すか、逃げ切るかしないといけない。
「ひ、ひなたちゃん~~……」
ムーニーバニーが姿を現した。ところどころ黒く焦げ付いていた。
「うさ……ムーニーバニー、大丈夫なの?」
「あいつ! 一生追ってくるし、めちゃくちゃミサイル撃ってくるの……! 死ぬかと思った……」
「あ、じゃあ、ちょっとプロフィール開いてみて」
ムーニーバニーはスマホを取り出して、プロフィールを開いた。色は緑色のままだ。HPは最大が600で、現在は525だった。
「525!? うさぎ、凄いね……!」
「え、何が? ほ、褒められてる? これって本当に褒められてるッ!?」
ムーニーバニーはあの蜂型ドローンと巨大蜘蛛に追い回されて、ほとんど無傷だったのだ。
サンライズハートはグローブを付け直し、まったく使い物になりそうにないガントレットを装着し直した。
「制限時間は、あと10分くらい。それで10分以内にあいつを倒せたら、たぶん私たちの勝ちだよ!」
「む、無理だよぉ! ミサイル一生撃ってくるから、危ないよ!」
「そう。だから、ムーニーバニーにも協力してほしいの!」
「え、え、えっ?」
サンライズハートはムーニーバニーの手をぎゅっと握った。そして、笑顔になった。
「うさぎ、私たち二人で、あいつをぶっ飛ばそう!」




