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魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第二章:チュートリアル
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第21話 クリフォト コード"廃都東京メルトダウン" 5

「いやああああああああああああああッッ……!!!」


 ムーニーバニーは銀色の煌めきを跡に引きながら、疾走していた。


 兎足のスタンプのような足跡を残し、どんどんとその速度は上がっていく。中庭を抜けて病院外に逃げ込むつもりが、別の病棟の中に入ってしまった。


 後ろからは大量の蜂の群れが、ヴヴヴヴヴと音を立てながらずっと追って来ていた。


 ――なんで、なんで、なんで。


 いまこの時ばかりは、世界の理不尽さに嘆くしかなかった。


 物事は逃げれば、負担が減るはずではなかったのか。うさぎは逃げた。ひなたは逃げなかった。なのに、うさぎの方に多く寄ってきている気がする。


 うさぎはひなたへの誓いと友情、それら全てを一度、棚上げして嘆いた。


 ――なんで、こっちにいっぱい来るの。


 批判も罵声も、生きて帰れたらいくらでも受けよう。でも、生きて帰れなかったら意味がない。命がなくなったら、懺悔も後悔もできない。うさぎは全てを賭けて、自らを守ろうとしていた。


 最初に蜂型ドローンが現れた時、見えてしまったのだ。


 銃口が。


 銃が。


 人を殺す兵器が。


 しかも、あの足先についたドリルとかハサミとかノコギリはいったい何なのだ。あれに捕まったら何をされてしまうのだ。


 いま、うさぎを追ってきているドローンは、明らかに、人間だけを選んで殺す機械だった。


「やだっやだっやだっ! 無理、無理、無理、無理、無理ッ~~~~~~~!!!!!」


 ムーニーバニーは病棟の廊下を駆け抜け、3階の窓を割って、外に飛び出した。そして緩やかに滑空して、完璧な五点着地を決めると、次の建物に向かって走った。そのすぐ後を、密集しすぎて団子のようになった蜂型ドローンが追いかけてくる。


 距離を確認しようと振り返ると、複数の赤いレーザーポインターがサーチライトのように荒ぶっていた。


 足を止めたら、撃たれる。


 ムーニーバニーは狭い通路を選んではすぐ左右に曲がり、直線を作らないように走り続けた。


 やがて、ムーニーバニーは吹き抜けとなっている病院施設の玄関ホールに出た。狭い通路を越えて、大量のドローンが入り込んでくる。


「―――あッ!」


 チュイン、と音がして、耳の傍を弾丸が掠めていった。


 撃ってきた。


 ムーニーバニーの恐怖はその瞬間に最大となった。


 ジグザグに逃げても撃たれるなら、被弾する可能性は際限なく増える。実はムーニーバニーはとっくに被弾していたのだが、その小さな痛みはアドレナリンで無視されていた。


 ムーニーバニーは足に大きく力を込めると、その場で思い切り飛び跳ねた。


 ―――大跳躍(ジャイアントリープ)


 玄関に散らばった瓦礫や灰を衝撃波で飛ばしながら、吹き抜けを丸ごとショートカットするような高さへの跳躍だった。


 ムーニーバニーは高さにして、およそ13階分を飛び越えると、手すりのガラスを割りながら廊下に逃げ込んだ。


 後ろからはドローンの羽音がまだ続いてくる。横に逃げても、縦に逃げても、空を飛ぶ機械には全く無意味だった。


「う、撃たないでっ~~~~!!!」


 廊下の後ろから無慈悲にも銃撃の音が近づいてくる。


 すでに数発の銃弾がムーニーバニーの後頭部に当たっているのだが、それはエアガンで撃たれた程度の痛みしかもたらさず、今の興奮状態を止めるほどではなかった。


 ムーニーバニーは13階の廊下を残像を残しながら逃げ去ると、そのまま非常口の扉を蹴り壊して、外に飛び出た。


 非常階段は錆びで崩れ、途中で途切れていた。


 強風が廊下に流れ込んでくる。視界の先には別病棟の屋根があった。


 うさぎは一瞬だけ目を瞑ると身体を抱きすくめながら、飛び降りた。銀色の煌めきが残り、背中のバーニアが青色の火を吹いた。


「う、うわぁぁぁぁッ―――――!!!!」


 空中でさらに加速する。


 激しい風圧が顔に当たり、鼻がもげてしまいそうだった。ブラックアウトしそうな程の重力を感じ、こめかみがきゅっと痛くなる。


 しかし、後ろから迫っている蜂の羽音が、減速を許してくれない。


 ムーニーバニーは、空中でさらに加速しながら病棟の屋根に着地した。


 屋根は着地の衝撃で、盛大にひび割れた。そこにさらにレーザーポインターの赤い点が集まる。ムーニーバニーが駆けだした後を銃撃の弾痕がなぞるように追っていく。


「ムーニーバニーッ!!」


 ひなたの声だ。うさぎは何棟か先の建物の屋上に、サンライズハートが立っているのを目視した。


「ひなたちゃぁぁぁぁぁぁんっ!!!」


 ムーニーバニーは泣き叫びながら、そちらに走っていった。彼女が屋上に着地するたび、病棟の屋根が激しい踏みつけと銃弾の雨を受けて崩壊する。


 そうして、2棟、3棟と病棟の屋根を破壊しながら、ムーニーバニーはとうとうサンライズハートの所に辿り着いた。


「生きてたッ! 生きてたッ! 良かったぁ~~~!!!」


「合流できた! ……危ないッ!」


 抱き着いてきたムーニーバニーを後ろにぶん投げ、サンライズハートはガントレットでライフルの銃撃を防いだ。


 ムーニーバニーを追いかけようとした蜂型ドローンを、サンライズハートはぶん殴った。ドローンは蠅のように叩き落され、屋上で爆発した。


 ドローンの群れは何故かムーニーバニーだけを集中して攻撃したいようだ。サンライズハートを無視して、真横をびゅんびゅんと羽音が通り抜けようとする。


 しかし、日輪の魔法少女は一匹たりとも逃すつもりはなかった。


 サンライズハートは肘と手と、足を全て使い、まるでゴールキーパーの如く、飛来するドローンを破壊し続けた。


「逃げてる、女の子を、追いかけるなーッ!」


 両手両足が埋まると、頭でドローンでぶつかった。


 サンライズハートの頭突きを受けた最後の蜂型ドローンは爆発し、屋上には墜落した機械が燃え上がる炎と煙だけが残されていた。


 周囲が静かになると、屋上の縁に捕まっていたムーニーバニーがひょっこりと顔を出した。きょろきょろと周囲を見渡した。


「も、もういないッ?」


「うん、たぶん……うさぎ、大丈夫?」


 機械の残骸が燃え盛る炎に照らされて、心配そうな表情のサンライズハートが近づいてくる。


 まるで鉄壁のように銃弾を弾き、徒手空拳でドローンを破壊し続けたサンライズハートの額には、片方の眉に小さな傷が残り、血で汚れていた。


「うさぎ……?」


 サンライズハートの差し出した手を取る前に、ムーニーバニーはぽろぽろと泣き始めた。


 死ぬような思いをした後の安堵感に、また友達を置き去りにしたことへの罪悪感。


 そして、ひなたの顔に傷がついてしまった。


 うさぎは声を上げて泣きながら、ひなたに助けてもらい、屋上に戻った。ひなたは「怖かったね」とうさぎの肩を軽く抱きしめてくれた。



 *******



「ひなたちゃん、本当にごめん。私、また逃げた……」


「え? あ、ああ~、そっち!」


 サンライズハートは泣きじゃくるムーニーバニーの言葉を聞いて、手をぽんと叩いた。


「ひなたちゃん!?」


「いや、急にロボットに襲われて怖くて泣いてるのかと思って。ううん、いいよ。むしろ、うさぎが大量に引っ張ってくれたおかげで、戦う数が減ってくれた」


「ロボットに狙われたのも怖かったよ……! も、もう出ようよ! ここ、怖いよ!」


 サンライズハートはついさっきまでの激しい戦闘を思い返して、自らの身体を見下ろした。本物の銃弾で撃たれたはずだが、衣装にも穴一つ空いていない。手や足に焦げたような跡が残っているが、これはほとんど、ドローンを倒した時の爆発によるものだ。


 サンライズハートは、先ほどの戦闘でほとんどダメージを受けていなかった。


「うさぎ、撃たれた?」


「撃たれたよ! 後ろから、ずっと撃たれ続けたよ!」


 そう言う割には、ムーニーバニーも被弾した形跡が見当たらなかった。瀕死だったり怪我をしていれば、もっと苦しんだり息が上がっているはずだが、ムーニーバニーは元気そのものだった。


「うん、うさぎ。魔法少女(わたしたち)って、あのロボットじゃ相手にならないくらい、強いのかも」


「え、え、え?」


 その時、ピガガガガガ、という興奮した音とともに、屋上で羽根を破壊されもがいている蜂型ドローンが動き始めた。


 黒い腹から伸びる足を器用に動かし、尾の銃口を二人に向けていた。レーザーポインターがムーニーバニーの眉間を這い、発砲音が轟いた。


 高らかな金属音が響く。


 ムーニーバニーの目の前には金色のガントレットがあった。


 サンライズハートが銃弾を防いだのだ。


 サンライズハートは恐るべき速度で、蜂型ドローンを捕まえた。そして、それを胸に抱き、わざわざムーニーバニーの前に持ってきた。


 その顔には、まるで好きなキャラクターグッズを見つけた時のような目の輝きが現れていた。


「うさぎ、虫とか平気?」


「む、無理ですけど……どうして、こっちに持ってくるの?」


「私も苦手だけど、機械だったらあんまり嫌じゃないなと思って。ほら、目の所とか可愛いよ!」


 といって、蜂型ドローンの素体を持ち上げた。


 捕まったドローンはモノアイの色を緑と黄にチカチカと点灯させながら、サンライズハートの腕から逃れようともがいている。黒と黄色のつるりとしたデザインは工業製品として見れば、コンパクトで可愛いのかもしれない。


 しかし、目の前でムーニーバニーがおずおずと手を伸ばすと、モノアイの色が真っ赤に変わった。


 ピガガガガガ! ピガガガ!と警告の音を出して、ドローンの尾にあるアサルトライフルが火を噴いた。


「ひ、ひいぃッ……! いやぁッ!!」


 ムーニーバニーは思わず、蜂型ドローンを蹴り上げた。豆粒のような機体は大きくへしゃげ、屋上の向こう、灰色の空の彼方へと飛んでいった。


 しばらくして、敷地のどこかに墜落して爆発音が聞こえた。


「ああ~……」


 サンライズハートが残念そうに飛んでいった方角を見た。見事な蹴たぐりだった。ムーニーバニーはその場にへたり込んで、体育座りになった。


 もう嫌だった。早くこの機械だらけの灰色の世界から抜け出したかった。


 二人のインベントリの中で、スマホの画面が文字列を告げていた。


『ウェーブ……クリアー! ネクスト…… エリアボス!』

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