第20話 クリフォト コード"廃都東京メルトダウン" 4
1匹は、スクールバッグ程度の大きさだ。
そのイエローに塗装された豆に似た胴体には、天辺に緑色に光るモノアイがあり、昆虫でいう腹の部分からは黒光りする鋼鉄の脚が多数生えている。
脚の先にはドリルや、剃刀のような拷問器具めいた解体道具がカチカチと音を立てていた。
尾の部分は、アサルトライフルの銃口のような円筒形になっていて、その先端からはレーザーポインターの赤い光が伸びている。
そして、4対の透明な羽根が、基線の黒い残像だけを残して、イエローの豆の背でヴヴヴヴヴヴと音を立て続けていた。
蜂型のドローンの集団は、屋上にいる二人の魔法少女目掛けて、まっすぐに向かってきていた。
「うさぎ、逃げよう!」
サンライズハートは呼びかけた。
ムーニーバニーはもういなかった。残像を残すほどの速さで屋上から飛び降り、中庭に消えていた。
その素早い遁走が蜂型ドローンのセンサーに引っかかった。
群れのモノアイが赤色に変わると、中庭に飛び降りたムーニーバニーを追って、ものすごい勢いで急降下し始めた。
「あ、ちょっとッ!」
追う暇はなかった。
屋上に残されたサンライズハートにも、赤いレーザーポインターが集められていたからだ。
尾の銃口が向けられ、次の瞬間、マズルフラッシュの激しい光が灰色の空を照らした。
銃声は止むことなく、魔法少女が跡形もなくなるまで続けられた。
いくつかのドローンが銃弾を使い切った。
フンのように空のマガジンが落とされ、マニュピレーターが次のマガジンを補充する。ドローンの群れは弾幕を維持したまま、次々とリロードを行い、屋上の魔法少女へ銃撃を浴びせ続けた。
……と。
ようやく、蜂型ドローンの銃撃が止んだ。
ピボッ、ピボッという電子音が鳴る。別のドローンがそれにピボッ、ピボボッと答えた。
意味にすれば「やったか……?」だろうか。
コンクリごと抉り削られ、硝煙の漂う屋上にモノアイの赤外線カメラがズームされた。
「痛ったぁ~……」
日輪のような輝きを保ったまま、両手を防御するように交差させ、魔法少女はまだそこに立っていた。
サンライズハートが両手のガントレットをぶつけると、硝煙の中に火花が散った。その顔を煤で汚しながら、魔法少女の両腕に炎冠のような炎が巻き付いて、煌々と燃えている。
「こっのぉッ~~~~…………!」
サンライズハートは1歩、2歩と踏みしめ、屋上を駆けだすと、蜂型ドローンの群れに向かって飛び掛かった。
灰色の空に日輪の輝きが煌めいた。1匹のドローンに飛びつくと、その黒い腹に拳を叩きこんだ。
爆発。
たったの一撃。
それも素手によるパンチで、蜂型ドローンは破壊された。
周囲のドローンは慌てたように電子音を鳴り響かせ、煙を立てて墜落するドローンとそれに乗った魔法少女に銃口を向ける。
しかし次の瞬間、墜落するドローンを足場にして、魔法少女が跳躍した。
―――次の足場にされる。
サンライズハートは二体目に飛び移ると、肘で銃口を叩き折った。バランスを崩したドローンを足場に、別のドローンに飛び移る。そのまま裏拳を叩きこみ、ドローンのモノアイを破壊した。レーザーポインターが重なり、別のドローンが銃撃を受け墜落する。
サンライズハートは次々と、蜂型ドローンを破壊し続けた。足場のない空中で、彼ら自身を足場にして。
やがて、群れのモノアイが白色になった。数が減りすぎたのだ。
ドローンの群れは戦力崩壊を認識し、半壊した味方を捨てて撤退行動に移ろうとしていた。
その指示を出したドローンに、屋上から剛速球のような勢いでコンクリの破片が激突し、爆発した。
サンライズハートだった。
屋上に跳び戻った魔法少女が、壊したドローンや、破壊されたコンクリを投擲してきている。
煙をあげて墜落していく隊長機ドローン、そのすぐ付近にいたドローンが慌てて電子音を出した。
それも、飛んできた礫に腹を貫かれて墜落した。蜂型ドローンたちは隊列もばらばらのまま、それぞれの方角に撤収し始めた。
戦いが収束した。
サンライズハートは「人に、銃口を、向けるなーッ!」と、逃げたドローンたちに怒鳴った。戦いが遠ざかっていくと、日輪の光は穏やかになり、ひなた自身の心も落ち着いてきた。
そこで、ようやく逃げたムーニーバニーのことを思いだした。
「うさ……ムーニーバニー!」




