第19話 クリフォト コード"廃都東京メルトダウン" 3
「斧……!? なんで、斧……ッ!? どうしてもっと、可愛いのじゃないのッ!?」
うさぎの頭に、あの黒い悪ガキの凶悪な笑みが浮かんだ。
嘆くうさぎに、ひなたは冷静だった。
「うさぎ、それもしかして取り出せる?」
「え……」うさぎは困惑した顔で言った。ひなたの言った通り、望めば手元に出現しそうな予感があった。
うさぎは試しに、手元に斧を持つイメージを浮かべた。
すると、うさぎの手の近くに白銀の両刃斧が現れた。その金属塊じみた重さを示すかのように、斧は中庭の地面を抉らんばかりに落下する。うさぎは思わず、斧の柄を握りしめた。
「わっ……」
両刃斧は難なくうさぎの手の中に収まった。
本物の金属であれば、うさぎの虚弱な腕では掴むことさえできなかっただろう。しかし、巨大な両刃斧はうさぎの片手に握られたまま、空中で止まっていた。
ひなたはそのアンバランスな光景に目を丸くした。
「重くないの?」
うさぎは試しに両刃斧を身体からなるべく離して、振った。
腕にかかる負荷は、子供用のプラスチックのバットを振った程度のものだった。手元にある巨大な武器が急に玩具のように思えてきた。
「うさぎ、力持ちだったんだね……」
巨漢が使いそうな斧を、細腕でぶんぶん振り回すうさぎを見て、ひなたが言った。
「違う、違うよ! これが軽いのッ!」
ひなたに注意を向けたせいか、うさぎの振り回す両刃斧の先端の刃が地面に触れてしまった。斧は、パワーショベルを突き立てたみたいに大地を抉り、土を捲り上げた。
土と砂が吹き上がり、飛び散った。
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ひなたはその場で準備運動を終えると、近くを走り回ってみた。
すごい速度だった。ただフォームだけ決めて適当に走っているだけなのに、時速にして40キロくらいは出ていた。
ひなたは足の力だけで急停止した。身体にかかる負荷は少なく、ぶ厚いヒールからは火花が散った。
一方、うさぎは足に力を込めて、ジャンプしてみた。
「うわわっ……!?」
重力がなくなるような感覚があり、うさぎは空中に跳んでいた。
一回の跳躍で、病棟の四階の窓枠にまで手が届くほどだった。その後の落下も緩やかで、うさぎは滑空しながら中庭の地面に降り立った。
高さにして、15メートル程度だろうか。もっと力を込めれば、屋上まで届くかもしれない。
うさぎが飛び跳ねた地面には、焼き付いたように兎の足跡が残っていた。うさぎのブーツの靴底と同じ形だった。
「すごいね! うさぎ!」
「ひなたちゃんも、足速い!」
二人ははしゃぎながら、病棟と中庭を飛んで跳ね回った。
どうやら単純な足の速さや跳躍力はムーニーバニーの方が勝っているようだ。サンライズハートは同じようにジャンプしてみたが、どんなに高く跳んでも10mが限界だった。
その代わり、サンライズハートは筋力で勝っていた。ジャンプで登れなくとも、ロッククライミングの要領で、病棟の壁を指で掴んで登攀することができた。
二人は病棟の屋上に辿り着くと、周辺の地形を見渡した。
空は澱み灰色で、遠方の景色はそのほとんどが人工物だ。工場や幾つもの煙突、鉄塔が山の稜線を覆っている。地球上のどこにもありえないような景色だった。
サンライズハートが叫んだ。
「この世界、灰色すぎるよーッ!」
「ね。せっかく、動き回れるのに」
サンライズハートの嘆きが谺した。
空から時折聞こえる地響きのような大気の音を除けば、周囲に音はなかった。
どんなに素晴らしい運動能力があろうとも、この殺風景で無機質な世界では駆け回る楽しさも半減だった。
サンライズハートはスマホを取り出し、マップを開いた。
「うーん、どうする? あの山の工場の方にでも行ってみる? ……うさぎ?」
返事はなかった。
ムーニーバニーは両耳に手を添えて、怯えた表情で周囲を見回していた。ムーニーバニーの聴覚は、何処かから聞こえてくる、蜂のような低い羽音を捉えていた。
「何か聞こえる……」
ヴヴヴヴ、という羽音はだんだんと大きくなってくる。
それは、一匹や二匹ではなく、何匹もの集団が重なって奏でられる耳障りなものへと変わっていった。
ムーニーバニーが音の方角を見ると、灰色の空に黒い点が幾つも浮かんでいるのが見えた。
近づくにつれて点は大きくなり、それぞれがつるりとした装甲を伴った蜂型の無人機であることが分かった。
「ひ、ひなたちゃん……!」
「何か来るよ!」
サンライズハートの開いたマップでは、大量の赤いピンの接近が表示されていた。




