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魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第二章:チュートリアル
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第17話 クリフォト コード"廃都東京メルトダウン" 1

 山北総合病院は、山北第一病棟、山北第二病棟、山北医科大学、山北子ども医療センター、山北特別養護老人ホーム、山北がん治療センター、山北リハビリセンターなどが併設された複合医療施設だった。


 そんな病院運営側の土地利用の手菅なんて、まったく知りもしない女子高生の二人は敷地内をさ迷い歩くことになった。


 クリフォトのピンは、大きく山北総合病院そのものに付けられている。


 GPSが不調なのか「クリフォトまで後何メートル」という表示が現れては数字が50から100を行き来するのだ。距離表示を50より先へ進むためには、病棟内部に入らなくてはいけなかった。


「クリフォト、どこだよ~……」


 ひなたがへとへとになって言った。うさぎも歩き疲れて、ベンチでへたり込んでいた。


「もっかい、検索してみよっか」とひなたがコヴェナントを開いた。そして、何かに気付いた。


「あ」


「ひなたちゃん?」


「『侵入』光ってる!」


 『侵入』の注意事項に、周囲に人がいないことを確認してください、と書いてあった。二人は目立つ中庭から離れ、誰も使っていなさそうな寂れた休憩室に忍び込んだ。


 中は汚れたテーブルと自動販売機が壁際に立っていて、ほとんど倉庫のようだった。


 二人は念を入れて、自動販売機の裏に隠れた。そしてお互いに顔を見合わせる。


「押してみるよ?」


「う、うん」


 ひなたが侵入をタップする。マッチング受付終了まで残り1分、と表示された。


『クリフォトに侵入します。周囲に人がいないことを確認してください。クリフォトに侵入します。周囲に人がいないことを確認してください』


 まるで警告みたいに、ひなたの画面には赤い文字列が流れだした。


「え、嘘。い、1分!? うさぎ、起動してる?」


「う、うん!」


 うさぎは自分のコヴェナントの画面を見た。


 クリフォトの項目が光っている。


 急いでタップすると「周辺に、クリフォトに侵入を試みている魔法少女がいます。協力しますか?」とメッセージが出た。


 うさぎは『協力』をタップした。


『クリフォトに接続中…………エラー!! 変身してください。生命維持にかかわります。変身してください。生命維持にかかわります』


 大きな警告音が、鳴った。


 いつのまにか視界は薄暗くなっていて、休憩室の壁は黒いカビに汚染されていた。


 目の前の自販機は錆びつき割れたディスプレイから、中身が露出してしまっている。寂れた休憩室は、いまや安全な病院の敷地ではなくなっていた。


 うさぎは、廃ビルの時に味わったような気持ち悪さが胃の腑を上ってくることに気付いた。


 昼食に食べたすべてのものが、げぼになって飛び出そうだった。


 ひなたはと見れば、鼻血を垂らしていた。


「うさぎ、いますぐ変身しよう」


「おえぇぇ……でも、どどどどうやって……!?」


「変身のフレーズ! 登録したでしょ!」


 ひなたはそう言うと、咳込んで吐血した。そして太陽のレリーフに装飾されたスマホを掲げ、大きく手を回し、腰にスライドさせた。


「―――変身ッ!!」


 その瞬間。


 ひなたは、日光のような明るい輝きに包まれていった。


 日輪のもたらす輝きのもとで、シルエットと化したひなたの手足や胴体に次々と衣装が装着されていく。やがて、あっという間に魔法少女の姿になると、最後にあの小さな宝冠のようなカチューシャが載せられた。


「サンライズハートッ! 見参ッ!!」


 かっこよくポーズを決めたサンライズハートの目の前で、うさぎは死にかけていた。酸っぱいものが食道までせり上がってきて、今にも吐きそうだった。


「う、うさぎ! 変身のフレーズ! 言って!」


「うぇぇぇ……う、うさぎ……うさぎ……なにみて……はね、るおグェェェェ」


 その瞬間。


 這いつくばったうさぎは、月光の輝きに照らされ包まれていった。


 月夜のもたらす闇のもとで、四つん這いになったシルエットに、問答無用で手足と装飾が装着されていく。


 やがて、あっという間に魔法少女の姿になると、うさぎは地べたに吐いた。


「おげぇぇぇぇ……ぐぇっ……うげぇぇぇ……」


「だ、大丈夫!? うさ……ムーニーバニー!」


 サンライズハートがムーニーバニーの背中を撫でようとする。しかし背中に取り付けられたバックパックが邪魔だった。


 うさぎは全てを吐き終えると、口元を拭った。


「ぜ、ぜんぶ出た……美味しかったのに、ぜんぶ出ちゃった……」


「本当に大丈夫?」


「たぶん……」


 変身が済むと、さっきまで感じていた気持ち悪さは一切なくなった。身体は軽くなり、視界ははっきりしている。


「そういえば、ウルサくん言ってた。ここにいる間は変身を解除しちゃ駄目だって……」


「私たち、危なかったね。次から注意しないと。クリフォトに入る前に変身しておかなきゃ」


「え、でも、人前で……?」


 うさぎは改めて、自分のコスチュームを見下ろした。


 可愛いとは言え、人前で着るにはコスプレのようでかなり勇気がいる。だが触ってみると、コスプレ用の衣装とは異なり、実物の装備としての重みを感じた。


 兎足のブーツなどは毛並みの部分はふわふわしているが、踏み込むと靴部分はしっかりと硬く、登山靴のようだった。ジャケットは動きやすいが、皮のように固い。


「どうなんだろう。変身って、日常生活でもできるのかな。私、昨日けっこうな頻度で変身、変身言ってた気がするけど、それでもこんな風にならなかったし。クリフォトに侵入する時にさっとしちゃうべきなのかも」


 ひなたもそう言って、自分の手をにぎにぎと握っている。


 試しにガントレット同士をぶつけあうと、本物の金属がぶつかる音がして火花が散った。


 ひなた本人は大した力を込めてなかったが、まるで工場のプレス機が廃品を押しつぶす時のような、凄まじい圧力がかかっていた。


 うさぎはその音を聞いて、飛びあがった。


「痛ッ!」


 飛び上がったうさぎは、そのまま天井にぶつかった。


 休憩室の床から天井までは3メートル以上はあった。うさぎは自分の跳躍に驚いて、怯えながらふわりと着地した。思わず口に出たが、天井にぶつけた頭も大して痛くはなかった。


 二人は顔を見合わせた。


 ひなたが言った。


「うさぎ、垂直飛び何メートル……?」

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