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魔法少女コヴェナント  作者: さんどまん
第二章:チュートリアル
11/28

第11話 クーリングオフ

あらすじ:

何事にも臆病な女子高生 藤村うさぎは、流れに負けて魔法少女として契約してしまう。


ところが、うさぎの目の前で行われた魔法少女同士の戦い――コヴェナントはうさぎの想像よりもずっと痛そうで激しく荒々しいものだった。


うさぎは契約したことを後悔し、どうにかして魔法少女を辞めようと画策するのだった。

 うさぎは昨夜の記憶をほとんど失っていた。


 どうやって帰ったかも、どれだけ親に叱られたかも、覚えていない。


 みよちゃんから荒れ気味の返信が来ていたことも、全てがぼんやりとした記憶の中に沈んでいた。


 目を覚ますと、今日は土曜日の朝だった。


 うさぎは憂鬱な気持ちで、放り出されたスマホと、触り心地の良いスマホケースを見た。


 スマホには未読無視となっているみよちゃんからの連絡と、ひなたからの数件のメッセージの通知が来ていた。ひなたからのメッセージは今すぐ確認したいが、みよちゃんのメッセージを確認するのは気が重かった。


 そして、なんとなく兎の足型スマホケースの方を触ってしまった。


「うう……」


 落ち着く。


 まるで、ペットでも撫でているかのようだ。うさぎは自分用に作られたスマホケースをひたすらに撫で擦り、心を落ち着けた。触っていると、重さが物足りなくなってくる。これだけ手にフィットするケースだ。スマホに付けてみたら、もっとしっくり来るかもしれない。


 だめ、絶対にだめ。


 あの生意気でうるさい小学生の小憎たらしい邪悪な笑みが浮かび、うさぎはどうにか誘惑を拒んだ。


 これを装着してしまうと、逃げようのない何かを受け入れることになる気がしていた。うさぎはスマホケースを振ったり叩いたりして、中に盗聴器や変なものが仕掛けられていないか入念に調べた。


 ケースはただのプラスチックのようだった。


「い、1回だけ」


 1回だけ付けてみて、感触を確かめて、そのあと返品しよう。


 うさぎは自らにそう言い聞かせ、スマホを兎足ケースに装着した。


 ぱちり、と音がしてスマホが完全にフィットする。手で持ってみると毛並みの肌触りが指心地よい。足跡のグリップがしっかりと手の中に収まってくる。


「おおぉ……」


 スマホは手に吸い付くようだった。あの黒いパーカーの少年は性格こそ最悪だったが、用意してくれたものは至高の逸品だった。うさぎは何度も手触りを楽しんだ。そのスマホケースを外すのを惜しく感じるほどだった。


 そして手に馴染むままに、スマホを操作しようとすると、ホーム画面に奇妙なアイコンが追加されていた。


『魔法少女コヴェナント』


 とんがり帽子を被り、黒いローブを着たアニメ風の女の子が箒に乗っているアイコン。サービス終了寸前の、ソーシャルゲームめいたアプリが勝手にインストールされていた。



 ********



 魔法少女コヴェナントは、スマホケースを外しても消えず、アンインストールもできなかった。「このアプリを削除するには、パトロンの許可が必要です」と画面に表示されるばかりだった。


「な、なんでぇ……! どうして消えないのぉッ……!」


 うさぎは泣きながら、ネットの知恵袋を見て設定を弄っていた。


 最終的に、スマホを初期化してアプリごと消そうと考えついたのだ。


 初期化してしまうと、アカウント同期などが大変面倒くさいのだが、この謎アプリに汚染されたスマホ画面をこれ以上見ていたくなかった。


 ようやくそれらしい設定画面に辿り着き、スクロールしているタイミングで知らない番号から電話がかかってきた。


 普段は非通知番号なんて出ないうさぎだが、いまこの時ばかりは混乱し、慌てすぎていた。


 設定で変な所を触ってしまったのかと焦り、思わず通話に出てしまった。


『おいお前、なんか変なことしてねーだろーな?』


「あっあっあっ、いやッ……!」


『あ、オイッ! 待っ』


 ブツッ! うさぎは通話を切った。


 あの口汚いガキ……ウルサからだった。


 心臓がばくばくと鳴っている。なんで? どうして電話番号がばれてるの? うさぎは混乱しながら、今かかってきた番号をブロックリストに入れた。そしてスマホ初期化の戻ろうとした。


 今度はメッセンジャーアプリに通知が来た。


『おい』


『切るな』


『でんわでろ』


「ひゃッ、無理ッ無理無理無理ッ……!」


 うさぎは悲鳴を上げながら、スマホを初期化した。


 げぼを吐きそうだった。


 土曜日の早朝だというのに、手汗がすごかった。


 初期化され、綺麗になったはずのスマホに3通のメッセージが届いた。


『あっそ』


『じゃあそれ返しに来いよ』


日南台(ひなみだい)のイオンにいるから』


 日南台。うさぎの家から自転車で十数分の所にある団地だ。


 確かに、そこの国道沿いにはイオンが建っている。


 しかし、なぜ、あの少年が自分の近所を知っているのだろう? 


 うさぎは思わずスマホケースを見つめた。GPS機能が勝手に乗っ取られているのかもしれない。うさぎは悪ガキに技術を持たせると、ロクなことにならない、と心から嘆いた。


 逃げ場のなくなったうさぎは、震えながらメッセージを返した。もはや所在地までばれているのなら、下手に刺激しない方がいい。


「郵送で送ります」というメッセージには『は?』としか返ってこなかった。


 そして『来なかったら、家まで行くぞ』という恐ろしい文言を見て、うさぎはめそめそ泣きながら支度をし始めた。

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