9 疑惑
翌日。
「はぁ……。」
私ったら、どうしてしまったのかしら。
昨夜のことを思い出しては、頬が熱くなる。
そして――
大好きなターキーサンドが、入らない。
(本当に、なんてことかしら……)
まさか今さら、小鳥族の仲間入り?
貴族令嬢は皆、恋をして少食になるというけれど……。
「お嬢様、どうなさったのです? サンドイッチが……。
はっ!まさか、体調が?」
カレンが顔色を変える。
そしてすぐに厨房へ指示を飛ばした。
運ばれてきたのは――
キャラメルナッツのスコーン。
「お嬢様、こちらをどうぞ。」
目の前で、きらきらと輝いて見える。
スコーンに添えられたクリーム、鮮やかなベリーソース。
「はぁ……苦しい……」
(でも)
それだけは食べなくては!
――やはり好物は、恋より強い。
小鳥族入りは、回避できそうだわ。
(そうだわ……こんな日には)
「クレア。例の物を準備してくれるかしら?」
その目は真剣だった。
「かしこまりました。お部屋の移動を。」
伯爵邸にしては小さな一室。
可愛らしい椅子とテーブルだけが置かれたその部屋で、
シャーロットは紅茶を飲みながら待つ。
コンコン。
「お待たせいたしました。」
この時代には珍しい、蓋付きの食器。
クレアは素早く一礼して下がる。
(ひさしぶりだわ)
ナトゥー。
遠方の国の食べ物。
――とても臭い。
でも、なぜか定期的に体が欲するの。
特に元気がない時ほど。
もちろん使用人たちは鼻がひん曲がるので、
いつも一人で食す。
「ん〜……やっぱり最高!」
やわらかな食感の中に、コリッとした歯ごたえ。
ほんのり塩気――たまらない…
コンコンコンコン!!
けたたましいノック。
ドアの下から差し込まれる紙。
(なにかしら)
拾い上げて開くと――
【ウィリアム様が急な御用でお見えです】
「!!?」
何ですって。
とんでもないわ。
この匂い。
今日はもちろん、明日だって無理よ!
「クレア、どうにか留守とごまかしてちょうだい!」
慌ただしい足音が遠ざかる。
(……ごめんね、クレア)
それにしても――タイミングが悪すぎるわ。
※※※
数日後。
「シャーロット。先日は急な訪問に、
気を悪くしたかな。すまない。」
「いえ……たまたま外出しておりまして。」
(臭かったなんて言えないわ……!)
「夜会で疲れた翌日に外出とは珍しい。どこへ?」
「あ…え、ええと……ちょっと。
幼なじみのところへ。」
会ってもいない人物の名を出す。
「ふうん。疲れていても会いたくなる相手なのか。」
――どうやら彼は、
公爵家のシェフが考案した冷たい菓子を食べてもらおうと持参したのに留守だった。と言う事だった。
「そうだったのですね…お忙しいのに。…申し訳ございません。」
(そんな珍しいお菓子が……!)
ショックで固まるシャーロット
「また届けるよ」
そう言って、ウィリアムは帰っていったようた。
※※※
――おかしい。
何かがある。
夜会の夜は離れがたく、少し帰宅が遅れた。
あの日は緊張もしていただろう。
翌朝も起きられないほどに。
それなのに、午後には外出。
幼なじみ。
(一体、誰だ)
ウィリアムの目が静かに細まる。
「……調べる必要があるな。」




