8 恋の始まり
夜会も終わり。
馬車は、静かな夜の街を進んでいく。
二人の距離も僅かに近づいていた。
重ねられた手。
ウィリアムは、それを離さぬまま――
そっと問いかけた。
「寒くはないか?」
低く、優しい声。
シャーロットは、小さく首を振る。
「大丈夫です…とても。暖かいです」
その言葉の通り。
彼の手から伝わる温もりが、
胸の奥まで満たしてた。
(……この気持ちは)
今まで知らなかった感情。
(もしかして……)
その時。
馬車が、小さく揺れた。
「――危ない」
耳元で、囁く声。
気づけば。
支えられている事に気づく。
息が、かかるほど。
(……近い)
けれど――
離れたくない。
もう少し近くで
もう少しだけ、触れていたい
胸が、強く鳴る。
ああ。
(……これが、恋なのね)
初めて、自分でそう思った。
鼓動をかくすように、
そっと、身体に力を入れる。
(次にお会いする時は――
きっと、この想いを伝えよう)
やがて。
馬車は、伯爵邸の前で止まった。
「お休みなさいませ、ウィリアム様」
名残を惜しむように、手を離す。
「……ああ。おやすみ、シャーロット」
ほんの一瞬。
何かを言いかけて――
ウィリアムは、微笑んだだけだった。
扉が閉じる。
離れていく馬車。
シャーロットは、その背を見つめながら――
そっと、自分の胸に手を当てる。
まだ、温もりが残っている。
(……次は、きっと)
恋は、確かに芽生えていた。




