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6 世界規模の求愛

少し長くなリました。

ある日。


伯爵邸の玄関前に、ひときわ立派な馬車が停まった。


「……見えたぞ」


伯爵が、ごくりと唾を飲む。


「こ、これは……ウィリアム公爵子息様!」


慌てて姿勢を正す。


「ようこそお越しくださいました」


ウィリアムは優雅に礼を返し、静かに告げた。


「本日は、シャーロット嬢と出かける

約束をしておりまして」


その手には、花束。

そして――小箱。


(……嫌な予感がする)


伯爵夫妻は、そろって固まった。


その頃。


シャーロットの部屋では――


「急いで!リボンが曲がってるわ!」

「髪はもっとふんわりです!」

侍女カレンによる、高速かつ完璧な支度。


(落ち着いて……今日は、ただのお出かけよ)



【王都中央植物園】


柔らかな光と、緑に包まれた空間。

ひとつのベンチへと、導かれる。


「こちらへ」


ウィリアムが手を差し出す。


(……やはり素敵な方だわ)


自然と頬が緩む。


「本日は、こちらを」


差し出された小箱。

そっと蓋を開ける。


「……!」


小ぶりのパイ。

艶やかな編み込み。

繊細で、完成された一品。


「ま、まあ……本当においしそう!」


本音が、即座にこぼれる。


(ああ……この反応だ)


ウィリアムの目が、満足げに細まる。


すっと。


少し離れた位置に控えていた侍女が現れ、手際よく簡易の茶を用意する。


(外でも楽しめるように、準備が……?)


ウィリアムは、確信した。


彼女は――


どこにいても、食を楽しむ人だ。


「外出用にプティパイだなんて……!」


シャーロットの瞳が輝く。


「さすがですわ。とてもセンスがよろしいです」


(こんなふうに褒められるとは……!)


ウィリアムは、内心で軽く衝撃を受けていた。


「いただきます」


サクリ。


小さな音。


次の瞬間。


ふわりと、頬が緩む。


その変化を、ウィリアムは見逃さない。


(……なんて可愛らしい方なんだ)


「シャーロット嬢」


静かに、名を呼ぶ。


「貴方は、こんなにも私を幸せな気持ちにしてくれる」


まっすぐに見つめる。


「できることなら、すぐにでも正式な婚約を国中に発表したい」


一呼吸。


「……構わないだろうか?」


しかし。


その時、シャーロットの頭の中は――


(このパイ……普通ではないわ)

(バターの層、折り込みの回数……温度管理も完璧……!)


「わたくしこそ、幸せですわ」


――少しだけ、会話がずれた。


だが。

何も問題ない。



帰宅後。


「ど、どうだった!シャーロット!」


伯爵が詰め寄る。


「食べ過ぎたりはしていないな!?」


「お父様!」


シャーロットは、きっぱりと言い切った。


「わたくしは、いつも――」


「一人分、いただいているだけですわ!」


堂々たる主張。


(……それでいいのか?)


伯爵は、何も言えなかった。



その夜。


シャーロットは机に向かう。


「そうだわ……ウィリアム様にも」


ペンを走らせる。





数日後。


公爵邸に、手紙が届いた。

一通は厨房へ。

そして、もう一通は――


ウィリアムのもとへ。


読み進めるうちに、笑みがこぼれる。

そこに綴られていたのは。

感謝と――


あまりにも詳細すぎる、パイの感想。


「……やはり、彼女は最高だ」


顔を上げる。


「セレル」


執事を呼ぶ。


「世界中の食材を集めろ」


「……は?」


問題はなかった。

「……は?」


「最高の料理を用意する」


静かに、しかし確信をもって言い切る。


「もっと、彼女を驚かせたい」


その瞬間。

ウィリアム・アヴェーヌの求愛は――


“世界規模”へと、移行した。

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