3 お茶会という名の試練
【公爵家主催 お茶会のご案内】
シャーロット嬢へ。
ごきげんよう。
先日はお会いできず、とても残念でしたわ。
今度はぜひいらしてね。
お待ちしております。
アヴェーヌ公爵夫人
なんと。
公爵夫人直々の招待状が届いた。
(な、な、なんてことかしら……)
社交界の中心。
そのお茶会で――
【完食】
などという失態。
(……できないわ)
青ざめる顔。
(でも、二度もキャンセル出来る身分ではないわ!)
その結果。
父にしっかりと説き伏せられ――
シャーロットは、おずおずとお茶会へ向かうことになった。
本日のドレスは、もちろん先日
ウィリアム様から贈られたもの。
その華やかな雰囲気とは裏腹に、
シャーロットの、心は沈んでいた。
「……私はとうとう、小鳥族になる日が来たのね」
馬車の中で、ぽつりと呟く。
公爵邸。
到着都同時に
「シャーロット嬢。はじめまして」
ウィリアムが出迎えていた。
「ドレス、とても似合っている」
優しく微笑む。
(ど、ど、どうして!?)
今日は、お茶会のはずでは?
そんな顔をしていたのか。
「君に会いたくてね。少し顔を出させてもらった」
さらりと言う。
(オーマイゴッド)
それは、シャーロットにとって、さらなる試練。
社交界を駆け巡った噂。
――婚約予定の令嬢。
当然、視線は集中する。
しかも。
公爵夫人と、ウィリアムに見守られながら。
お菓子を、食べる。
(……無理)
完食など、できるわけがない。
血の気が引くようなおもいで席に着く。
「今日はね、ウィリアムと婚約者予定のシャーロット嬢をお呼びしたの」
公爵夫人が微笑む。
「皆さん、仲良くして差し上げてね」
向けられるのは、表向きの笑顔。
そして。
こちらに振り返った瞬間――
刺すような視線。
(ああ、神様……)
その時。
ふわりと、甘い香りが漂ってきた。
紅茶と菓子が運ばれてくる。
「ご自由に楽しんでちょうだい」
優雅な一言。
(……つまり)
全員の心の声が一致する。
(さあ、食べてみなさい)
シャーロットは、皿を見つめた。
繊細な盛り付け。
果実のソースが美しい。
混ざり合うフルーティな香り。
(……美しい)
そして。
(絶対に、美味しい)
気づけば。
周囲の視線よりも一皿に、集中していた。
サクリ。
小さく切り分けて、一口。
(……ん……)
瞳が、輝く。
呼吸が、ほどける。
(なに、これ……)
しっとりとした生地。
ナッツのコクが溶け込んだクリーム。
「……おいしい……」
思わず、声がこぼれた。
その瞬間。
周囲の令嬢たちの空気が、変わる。
(……まさか)
(この場で……?)
シャーロットは気づかない。
二口、三口と、丁寧に味わいながら食べすすめ
気づけば。
皿は、空になっていた。
「……まあ」
誰かの小さな声。
それをきっかけに。
くすくす、と笑いが広がる。
(……やってしまった)
血の気が引く。
恐る恐る、顔を上げると――
「美味しかった?」
ウィリアムが、まっすぐに見ていた。
「美味しそうに召し上がってくれて、
シェフも喜ぶわ」
公爵夫人も、穏やかに微笑む。
(……え?)
「食事とは、本来そうして楽しむものだろう」
ウィリアムが続ける。
「久しぶりに、良い食事を見た」
(どうして……?)
責められなかった。
むしろ
褒められた。
そして。
静かに続ける。
「やはり――君を逃したくない」
その一言で、
数名の令嬢が、静かに崩れ落ちた。
かくして
失神者が続出したお茶会は、幕を閉じたのだった。




